あゝ、荒野 の商品レビュー
家出してボクサーにな…
家出してボクサーになった〈バリカン〉は、ジムの窓から夜の新宿のネオンの荒野に目を向けて、一つの疑問にとらえられる。「西口会館のSUNTORYのネオンのYの字だけが後れて点くのは何故か?」―。
文庫OFF
どもりに悩む「バリカン」こと二木健二が、自分を変えようと「片目」の堀口の経営するボクシング・ジムの門を叩き、兄貴分となった新宿新次との勝負にいどむまでをえがいた小説です。 バリカンと新次を中心に、スーパーの経営者であり映画館でひそかに自慰行為に耽る性癖をもつ宮木太一、新次と一夜...
どもりに悩む「バリカン」こと二木健二が、自分を変えようと「片目」の堀口の経営するボクシング・ジムの門を叩き、兄貴分となった新宿新次との勝負にいどむまでをえがいた小説です。 バリカンと新次を中心に、スーパーの経営者であり映画館でひそかに自慰行為に耽る性癖をもつ宮木太一、新次と一夜をともにして彼の持ち金を盗み出した曽根芳子、バリカンの父親で万引きをくり返している二木建夫、俳優の川崎敬三に似た容貌で早稲田大学の「自殺研究会」のメンバーである川崎敬三(そっくり)といった、いずれも癖のある登場人物たちが織り成す、群像劇ふうの物語になっています。 バリカンの新次に対するやや屈折した心情がストーリーの軸となって、二人の対決というクライマックスへ向かって物語が進んでいくのですが、川崎(そっくり)たちにそそのかされて自殺機械の被験者となるにいたる二木建夫の孤独をはじめ、脇役たちにかんするストーリーにも印象的なところが多くあります。最後のバリカンと新次との勝負と、バリカンの死亡診断書で物語を締めくくるところは、著者のサーヴィス精神が若干過剰にも感じてしまいましたが、全体を通じてたのしむことができたように思います。
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「手垢にまみれた言葉を用いて、形而上的世界を作る」事を目的に書かれた、寺山修司の唯一の長編小説。 「手垢にまみれた言葉」が日常に満ち満ちていた時代、スポーツ選手や映画俳優は、老若男女皆顔も名前も知っていたし、流行歌のフレーズやCMのキャッチコピーは、誰でも、ごく当たり前に口ずさむ...
「手垢にまみれた言葉を用いて、形而上的世界を作る」事を目的に書かれた、寺山修司の唯一の長編小説。 「手垢にまみれた言葉」が日常に満ち満ちていた時代、スポーツ選手や映画俳優は、老若男女皆顔も名前も知っていたし、流行歌のフレーズやCMのキャッチコピーは、誰でも、ごく当たり前に口ずさむ事ができたんだろうなぁ。 そんな無邪気な時代、日本全体が、共通の価値観を持ち得た時代は、現代からしみじみ遠くなったと思う。 それでも、作中のそこここに散りばめられた言葉は、現代にも通用する普遍的な力を持つ。 ストーリーの大筋を決めておいて、後は登場人物達を即興で動かしていくという手法も、実験的で面白い。
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