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写真集 オン・リーディング の商品レビュー

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2016/06/16

アンドレ・ケルテスが撮った「本を読む人々」の写真集。「読む」という行為は孤独な営みであると同時に、自らの内面に他者を招き入れようとする試みではないでしょうか。頁を繰るうちに、ケルテスの優しいレンズはこの本を読む私たち自身にも向けられているのだと気がつきます。途中から日本の風景も出...

アンドレ・ケルテスが撮った「本を読む人々」の写真集。「読む」という行為は孤独な営みであると同時に、自らの内面に他者を招き入れようとする試みではないでしょうか。頁を繰るうちに、ケルテスの優しいレンズはこの本を読む私たち自身にも向けられているのだと気がつきます。途中から日本の風景も出てきます。

Posted byブクログ

2010/12/26

 〈読む〉という行為によって、人は沈黙を完成させる。漠然とではあるけれど、私は都市生活の中で、地下鉄車内やカフェ、劇場の開演前など、多くの〈読む〉人を眺めたりしつつ、ついそんな風に考える。もっと大袈裟に言うと、人は死なないために本を〈読む〉とも言える。「死なないために」とは荒川修...

 〈読む〉という行為によって、人は沈黙を完成させる。漠然とではあるけれど、私は都市生活の中で、地下鉄車内やカフェ、劇場の開演前など、多くの〈読む〉人を眺めたりしつつ、ついそんな風に考える。もっと大袈裟に言うと、人は死なないために本を〈読む〉とも言える。「死なないために」とは荒川修作の著作名だが、実際、人は真に何かを〈読む〉とき、文字の氾濫を目に許しているとき、自ら命を絶つことはできない。では、自らの死によって〈読む〉ことが中断されることに耐えられないほどに、次ページへの好奇心を高ぶらせておけばよい、ということになるのだろうか。  ハンガリー出身で、おもにフランスと米国で活躍した写真家アンドレ・ケルテス(1894-1985)が、1920年から1970年まで撮り続け、1971年に刊行した写真集『On Reading』(米W. W. Norton & Company 刊)が最近リイシューされ、入手しやすくなっている。NY、ワシントン、パリ、ル・アーヴル、ヴェネツィア、ブエノスアイレス、東京、マニラ、京都、ニューオーリンズ。各都市、各時代、各シチュエーションで写された、群衆の中の〈読む〉人々。彼らの生の時間は周囲の時間の進行から遊離し、パラレルな別の時間が流れる。たとえ紛争中の国境地帯で出撃を待つ兵士でさえ、この時間の流れを享受するだろう。  唐突だが、〈読む〉ことと〈茶を飲む〉ことの類似性を、『On Reading』をめくりながら考えた。そういえば、ルイ・マル『鬼火』(1963)の主人公(モーリス・ロネ)が、ピストル自殺の直前まで読みかけの本を読了しようと努めていた光景も、ふと思い出した。あんなこともあるのかね、と今さらながらに思うが。  このリイシューのことを港の人のtwitterで知った。その中では、広尾の流水書房の閉店のことが記されていた。青山ブックセンター広尾店が潰れて以来、不安定な書店運営が続いた広尾ガーデン2階だが、潰れた流水書房に代わって、10月から文教堂が入ったようだ(流水書房跡ではなく、文具の伊東屋跡?)。  私はもう、すっかり広尾に寄りつかなくなった。本屋も次々にダメとなり、当然レンタルビデオ店もCD店もこの街からは消滅してしまった。

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