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無根拠からの出発 の商品レビュー

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2012/07/23

『言語行為の現象学』に続く、著者の第2論文集。ローティの反基礎づけ主義やフッサールの生活世界への還帰の主張などを参照しながら展開される議論は、前著と同様に「正当化の社会化」をめざす意図に貫かれているが、扱われている題材は前著よりも多岐にわたっている。 第4章「「幾何学の起源」と...

『言語行為の現象学』に続く、著者の第2論文集。ローティの反基礎づけ主義やフッサールの生活世界への還帰の主張などを参照しながら展開される議論は、前著と同様に「正当化の社会化」をめざす意図に貫かれているが、扱われている題材は前著よりも多岐にわたっている。 第4章「「幾何学の起源」と現象学」では、『幾何学の起源』に見られるフッサールの最晩年の思想と、それに対するデリダの解釈が紹介されている。かつてフッサールは『論理学研究』において、身体や言語に関わる付随物を削ぎ落として理念的なものを純化することをめざしていた。だが『幾何学の起源』では、まったく反対に、理念的なものが言語、それも書かれた言語であるテクストに依拠してはじめて可能になることを認めるに至った。ここに示されたフッサールの議論は、理念性と社会性・歴史性が混淆する場面を切り開く可能性を秘めており、デリダの解釈はまさにこの可能性を追求するものだった。 第5章「志向性と指示行為」では、英語圏のフッサール研究に大きな影響を与えたD・フェレスダールによるノエマ解釈の検討がおこなわれている。従来のフッサール解釈では、「対象」とはノエマ的意味の体系的統一として理解されていた。フェレスダールはこうした観念論的な解釈をしりぞけ、ノエマ的意味とはフレーゲの「意義」に等しい概念的存在者であり、それによって実在の対象を選び出すことができるという記述理論に近い発想を、フッサールが抱いていたと主張する。 ところで、もし彼の解釈が正しいとすると、クリプキやパトナムによって指摘された記述理論の問題を、フッサールの立場も抱え込んでいたということになる。だが著者によれば、フッサールはノエマ的意味の内実を「規定可能なⅩ」と「規定可能な内容」に区分しており、しかも「規定可能なⅩ」は、能動的・言語的な述語づけを受ける以前に、受動的・前述定的に「この犬」「この机」など類型的に把握されると考えていた。こうした理解に基づいて、著者はフッサールの指示理論の現代的意義を救い出そうと試みている。 また第6章「志向性の目的論的構造」で著者は、パトナムの現象学批判に対してフッサールを擁護している。フッサールは志向性を単なる意識や心的表象の属性としてではなく、行為能力に属するものとして捉えており、対象の指示関係が成立するためには実在する事物との間に因果的相互作用がなければならないとするパトナムの立場にむしろ近いところに立っていたと著者は主張している。

Posted byブクログ