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チェッリーニ自伝(上) の商品レビュー

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2013/02/21
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※このレビューにはネタバレを含みます

チェッリーニの人間性がよく伺われる。また芸術家が宮廷を渡り歩く様子、芸術家グループにおいて交流を深めるだけでなく、法王や皇帝との対話、貴婦人とのやりとりなどから、より「高尚」なものを求める宮廷人としての側面も強く見受けられる。(もちろん、職人気質であって、まずそれがチェッリーニの性質のなかで中核となるものだけれど) フィレンツェ、ローマ、フェッラーラ、ヴェネツィア、そしてドイツ、フランス、スペインなど国際色豊かな1500年代前半の姿が、チェッリーニの独断と偏見によってだが浮かび上がる。  出生をダヴィデの伝説や、アエネイアースを引用することによって気高いものとし、無実の罪によって投獄されことで自らを聖人と重ね合わせている。牢獄では苦悩に苛まれつつも、それを克服する描写がみられるが、これは洗礼者ヨハネの荒れ地における隠遁生活、隠修士を参照にしているのだろうし、そこから天上界へと導かれる過程は、まさにダンテの「神曲」そのもの。チェリーニの知識人っぷりにはあっぱれ。 様々な権威づけがいたるところになされており、また彼は常に正義の人である。他人の言葉であろうとも、チェッリーニは常に「私」である。(これは原典にあたらねばわからない問題であるが、訳者はそのような表現が最適であると判断していることを尊重したい) ここまで自信家を貫かれるとむしろ気持ちのよいくらいだ。年を重ねるごとに、浅薄な行動を避けむしろ人をたしなめる立場をとることもあるように、彼自身の成長も見受けられて微笑ましい気持ちになる。 もちろんきちんと時代背景や記録と照らしあわされなければならないが、ひとつの伝記、読み物としては十分魅力的であろう。 確かにチェッリーニの彫刻は優美で魅力的だ。複雑な意匠が盛り込まれ、それぞれの像が繰り出す流麗な腕の動き、身体のゆらめき、ほっそりとしているのにふっくら。静的であり動的。反対の一致という概念がうっすら浮かび上がるようにも思える。私自身がこの概念については言及しなくてはいけないのだが。感想から脱線してきてしまった。「それについては、とやかく言う場所ではないので、これ以上は触れない」(p.122)

Posted byブクログ