ウッツ男爵 の商品レビュー
10/22 読了。 プラハの春およびその後の弾圧が起こる1年前の1967年、プラハを訪れたイギリス人の「私」は、"現代のルドルフ2世"と称されるコレクターのウッツと出逢う。ウッツは幼い頃に祖母から貰い受けたアルルカンの人形をきっかけとして、膨大な数のマイセンの...
10/22 読了。 プラハの春およびその後の弾圧が起こる1年前の1967年、プラハを訪れたイギリス人の「私」は、"現代のルドルフ2世"と称されるコレクターのウッツと出逢う。ウッツは幼い頃に祖母から貰い受けたアルルカンの人形をきっかけとして、膨大な数のマイセンの磁器人形を蒐集していた。価値ある個人コレクションは共産主義政権によって接収されてしまう時勢、他のコレクターはコレクションと共に次々とチェコを出て行ったが、ウッツはたびたびスイスへ出国する自由を有しながら必ずプラハに戻ってくるのだった。ウッツの身の上話を聞き終えると「私」はイギリスへ帰国し、間も無く悲劇がプラハを襲う。20年後、ウッツが死んだという便りを受けた「私」は再びプラハを訪れ、ウッツのコレクションの行方を辿る。しかし、彼の見事なコレクションは一夜にして消えた、それも彼と彼の妻の手によって砕かれ捨てられたというのだ。 こじんまりしているが、作中のマイセン人形のように洗練された魅力あふれる小説。ウッツが「アダムは地上の最初の人間だっただけではなく、最初のやきもの人形でもあったわけです」などと、やきもの→ゴーレム→アダム(人間)を同一視して語る薀蓄パートの楽しさ。「私」の醒めた目線から描写されることにより際立つ、コレクターという人種の寂しさ。ウッツとその妻マルタに関する謎。そしてプラハの町の空気感。肩を抜いてさらりと書かれたようなのに、完成度の高い文章が見事。プラハを離れ田舎町に移り住んだマルタを訪ねるラストの不思議な清々しさが印象に残る。
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『黒ヶ丘の上で』が素晴らしくてチャトウィンの作品をもっと読みたくなり探したらこちらの旧約の表紙が素敵で読んだ。原題は『UTZ』で黒地に白く力強くデザインされている。もちろん日本語で『ウッツ』だけでは何だか分からないから『ウッツ男爵』で妥当だけれどこの本のタイトルは『ウッツ』がいい...
『黒ヶ丘の上で』が素晴らしくてチャトウィンの作品をもっと読みたくなり探したらこちらの旧約の表紙が素敵で読んだ。原題は『UTZ』で黒地に白く力強くデザインされている。もちろん日本語で『ウッツ』だけでは何だか分からないから『ウッツ男爵』で妥当だけれどこの本のタイトルは『ウッツ』がいい。ちょっと何言ってるか分からないけど読んだら分かってもらえると思うwそこには『黒ヶ丘〜』とも共通するテーマがある。ウッツ男爵はマイセンの人形のコレクターで、物語は彼のさみしいお葬式から始まる。彼の印象もパッとしない。ただしコレクターとして非常に抜け目なく審美眼はかなり発達している。そしてお金持ち。蒐集のテクニック、ペダントリーな知識、駆け引き等サザビーで活躍したチャトウィンならではのリアルな描写があり最終的にあのコレクションはどこへ?とちょっとミステリー仕立てのように興味をひかれ楽しく読んだ。コレクターとは何だろう?人生にとって尊いのは何だろう?と考えさせられた。
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オークションのサザビーズに務めていただけあって、蒐集家が蒐集家たるゆえんを、興味深く書いている。 おそらく、ブルース・チャトウィン自身の投影でもあるのだろう。 旅行記同樣、こちらも彼の探究心を楽しめる。
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