花束を抱く女 の商品レビュー
ときおり、ふと思う…はたして文学は、 絵画や音楽のように芸術的な表現であるのだろうか…?と、 有限の言葉から選び、並べているだけではないのか…?と、 もちろん絵画表現は、新たな色を創ることとは違うのだろうけど… ならば、これまでに、数知れず使われた言葉を並べながらも、 誰も見た...
ときおり、ふと思う…はたして文学は、 絵画や音楽のように芸術的な表現であるのだろうか…?と、 有限の言葉から選び、並べているだけではないのか…?と、 もちろん絵画表現は、新たな色を創ることとは違うのだろうけど… ならば、これまでに、数知れず使われた言葉を並べながらも、 誰も見たことのない地平が拓けたとしたなら、 やはり文学も充分に芸術的な表現となるのだろう。 本作を読みながら…そんなことを、つらつら考えていた。 ノーベル賞受賞の知らせを聞き、手にした本書… 莫言(モーイエン)の短編集だ。 「透明な人参」「蠅・前歯」「花束を抱く女」の3編を収録。 これまで出逢ったことのない表現が、確かにあった! たとえば…口づけする男の心情… ―長雨のときの生産隊飼育小屋のあのグラグラと沸き立つオンドル、 竈のそばで鳴くコオロギの歌、石の桶のそばで飼料を咀嚼する カサカサという音、ラバがブルルと鼻を鳴らす音、鉄の鎖が 石桶にガチャリと当たる音… すべてが彼の感覚の内に響きわたっていた。 ボクは、こうした風景の中で暮らしたことはないのだけれど、 でも、どこかで出逢ったような感じがする…おそらく、 そうした未知の世界を既視に変えてくれるような、 世界中の人に響く表現なのだろう…じっくりと味わいたい本だ。
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