殿様生物学の系譜 の商品レビュー
生物学、とりわけ分類学というのはいわゆる基礎研究であり、なかなか実益に繋がりにくく、研究が進みにくい分野でもあった。 そんな中、資産が豊富で人脈もあり、海外旅行の珍しかった戦前にも海外へ行くことのできた富裕層、いわゆる殿様生物学者が数多くいた。。 しかし富裕層がすべて生物学...
生物学、とりわけ分類学というのはいわゆる基礎研究であり、なかなか実益に繋がりにくく、研究が進みにくい分野でもあった。 そんな中、資産が豊富で人脈もあり、海外旅行の珍しかった戦前にも海外へ行くことのできた富裕層、いわゆる殿様生物学者が数多くいた。。 しかし富裕層がすべて生物学を志すわけではなく、本書に挙げられた「殿様」たちが生物学を選んだ理由は何であろうか。 あとがきにはこのようにある。 「一つだけ明確なのは、当時の「生物学」は、政治の対極にあるものと位置づけられていたことだ」 昭和天皇は、「危険な政治の世界に巻き込まれないよう」歴史学を断念し生物学を勧められた。他の「殿様」たちにしても、わずらわしい政治から逃れるのに生物学はもってこいだったのかもしれない。 単なる逃避、好奇心の満足に終わらせなかった数々の殿様生物学者たちが残した足跡は大きいが、こうした「殿様」がほとんどいなくなった現代において、その情熱を継げる者たちはいるのだろうか、それを受け入れる環境は整っているだろうか、と著者は嘆いている。 今年ノーベル賞を受賞した大隈博士は、基礎研究の重要性と、その苦境を訴えた。本書はもう四半世紀も前の出版であるが、現状において状況は変わっていないどころかむしろ悪化しているともいえよう。 また、今年は天皇陛下の譲位が話題となった。本書にある明仁天皇の魚類学への熱意と貢献を拝見するに、できれば公務から解放され、お好きな研究に思う存分没頭していただきたいと願う次第である。
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