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現象学と倫理 の商品レビュー

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2021/10/17

前半は、ブレンターノ、フッサール、シェーラー、シュッツの倫理思想を解明した論文が、後半は、生活世界や発生的現象学など、晩年のフッサールの思想について論じた論文が収められています。また付論として、ムーアをはじめとする英語圏の倫理学や、それらを踏まえた岩崎武雄の倫理学などを批判的に論...

前半は、ブレンターノ、フッサール、シェーラー、シュッツの倫理思想を解明した論文が、後半は、生活世界や発生的現象学など、晩年のフッサールの思想について論じた論文が収められています。また付論として、ムーアをはじめとする英語圏の倫理学や、それらを踏まえた岩崎武雄の倫理学などを批判的に論じた論文を収めています。 著者は、情意などに倫理の起源を求める経験主義的な倫理思想と、カントの自律的な倫理学の間に横たわる溝を架橋する道を、フッサールとその周辺の思想家たちによる倫理思想に求めています。まずブレンターノにかんしては、志向性による価値の領域を承認しながら、情意に倫理の起源を求めた彼の両義的なスタンスが評価されます。こうした観点から、ア・プリオリな倫理の形式を定言命法に求めたカントの立場を乗り越えて、実質的なア・プリオリ性を探ろうとしたフッサールの現象学の企図が、高く評価されています。 さらに著者は、シェーラーの価値論を発展させることで、より具体的な倫理学の構想をえがこうとしています。シェーラーは、ブレンターノ、フッサールの実質的な価値感情を切り捨てることのない倫理思想を受け継ぎながら、そのなかにある秩序を明晰に把握しようとしました。彼は自我に「肉体的」「生命的」「心的」「精神的」という位階を設け、それぞれを「感覚感情群」「生命感情群」「純粋心的感情群」「精神的感情群」を割り当てます。しかし著者は、こうしたシェーラーの思想のうちには、四つの位階を統合する原理が明確でないことを批判し、「人格」の概念に統合の役割を担わせることができるという考えを提出します。 ムーアらの英米倫理学を論じた付論では、彼らがけっきょくのところ存在と価値の溝を埋めることができなかったことを確認したうえで、シェーラーの倫理学にのこされた問題点を克服する可能性を見ようとしています。

Posted byブクログ