経済倫理学序説 の商品レビュー
著者は、ケインズとヴェブレンの経済思想のうちに、大衆社会に対する懐疑の態度を読み取ろうと試みています。 著者によると、ケインズは知的貴族であるという自意識を強く持ち合わせており、エリートによって社会が総括されることで、民間よりも明敏で強力な政府が成立しうると考えていました。しか...
著者は、ケインズとヴェブレンの経済思想のうちに、大衆社会に対する懐疑の態度を読み取ろうと試みています。 著者によると、ケインズは知的貴族であるという自意識を強く持ち合わせており、エリートによって社会が総括されることで、民間よりも明敏で強力な政府が成立しうると考えていました。しかし著者は、こうしたケインズの思想に設計主義的な発想を読み取って批判するのではなく、むしろノブレス・オブリージュに基づく精神の強靭さを高く評価します。しかしながら、けっきょくのところケインズは、物質的幸福と社会的平等のみを追及する大衆社会の本質を理解していなかったという批判を展開しています。 他方ヴェブレンについては、著者はその言語戦略に注意を払っています。ヴェブレンは、言葉を中心にして綾なされる象徴の消費に切り込むために、日常の言葉を用いて日常の通念をひっくり返すという戦略をとったと著者は解釈しています。そしてこのようなヴェブレンの戦略のうちに、社会科学はどれほど自然科学的な装いを施してもしょせんは自然言語に依拠せざるを得ず、価値や感情から自由になれないということを浮き彫りにする「経済学批判」の意義を読み取ろうとしています。 本書の全体が指示しているのは、ケインズとヴェブレンという2人の優れた経済学者の考察を通じて、現代の大衆社会を覆い尽くしている合理主義と機能主義を批判するための足場を探ることだと言えるように思います。
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