世界システムの政治地理(上) の商品レビュー
本書は原題Political Geographyの示すように政治地理学について書かれた名著である。著者であるP.J.テーラーは政治地理学研究の大家であり、この著作は日本で唯一翻訳されている彼の単著である。 訳者、高木彰彦教授(現在、九州大学)が述べているようにP.J.テーラ...
本書は原題Political Geographyの示すように政治地理学について書かれた名著である。著者であるP.J.テーラーは政治地理学研究の大家であり、この著作は日本で唯一翻訳されている彼の単著である。 訳者、高木彰彦教授(現在、九州大学)が述べているようにP.J.テーラーはウォーラステインの世界システム論を地理学、特に政治地理学に転用した人物である。よって本書のタイトルは「世界システムの」となっている。テーラーのウォーラステイン、あるいは彼の理論への熱中は巻末の参照文献に見られるだけではなく、ウォーラステインの著書『業書世界システム1 ワールドエコノミー』藤原書店に「世界経済論的アプローチにおける地理的尺度」を執筆するほどだ。 地理学とは本来、比較政治学、経済学などと異なり差異を通して地域的な特性を見出す学問であった。しかし、グローバル化の進行の下で世界的な繋がりを無視する事はできなくなり、政治学、経済学など様々な学問との領域的接点が今まで以上に盛んになった。これに加えて80年代には、地政学に対する再評価が始まった。これは戦前のナチス、日本の地政学を二つの点で受け入れず、クリティカルな視点に立つ事から批判的地政学、もしくは批判的政治地理学と言われた。 二つの批判とは、戦前の地政学とは帝国主義的な支配体系の一枠組みであったが、批判的政治地理学は構成主義の立場から周辺諸国の地理、政治、経済、文化構造を学び、これを平和的に活用する事。二つめに、ナチス、日本共に地域的に限られた領域を対象とする地政学を構築したが、政治地理学はローカル、ナショナル、インターナショナル、グローバルな領域を含有する。 これらの批判的政治地理学の研究は欧米では理解されているが日本では未だに地政学という言葉に囚われ研究が進んでいない。そういった中で政治地理学とはどのようなものか、理解する格好の教科書である。
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