私の西洋美術巡礼 の商品レビュー
この本を読むきっかけは、ある先生が書いた短い文章にあった。それは推薦図書に対する紹介の一文で、学生時代、留学しようとする彼女に指導教授から渡された一冊がこの本だという。「せっかくヨーロッパに行くのだから研究だけではない視野を持ちなさい。」そういう言葉を添えて。 この教授の行為にま...
この本を読むきっかけは、ある先生が書いた短い文章にあった。それは推薦図書に対する紹介の一文で、学生時代、留学しようとする彼女に指導教授から渡された一冊がこの本だという。「せっかくヨーロッパに行くのだから研究だけではない視野を持ちなさい。」そういう言葉を添えて。 この教授の行為にまず私はひかれた。多分、一人で新たな地へ旅立つ教え子に、本を渡す、それも専門とは全く関係ない本を。いいなぁと。 そして読み始めて、ただの美術鑑賞の本ではない事にささやかな衝撃を受けた。著者は在日韓国人。両親を亡くし、看取ってくれた妹とヨーロッパに旅にでる。そんなところから始まる本は全体的に暗くせつない。著者自身の過去や孤独、祖国が絵画とシンクロしながら旅は進む。何故、この人はこんなに苦しい思いをしながら、旅を続けるのだろう…。そう思いながら読み進めた。 美術鑑賞はある意味肉体労働。みるだけでもそうで、さらに作者の意図を探り、自分自身を見つめ直すとなったらかなりキツイ作業だ。 私は、美術はかなりの苦手。絵にコンプレックスがあり、鑑賞する機会も少なかったせいか、絵を見て何になるのか、と思っていた時期がある。わざわざ現物を見なくてもガイドブックや美術書で十分、そう思っていた。今だって、そうきちんと鑑賞出来ているとは思わないけど、でも、あの空間の中で実物と向き合う時間は貴重な体験であると感じる。本当は一気に見るのではなく、数枚をじっくりと時間をかけて見られれば、なお良いのだけれど…。旅先ではなかなかそうもいかない。 彼の旅もなかなかハードである。閉館ぎりぎりに入れてくれと交渉してみたり、気管支炎になりホテルで悪夢にうなされながらの鑑賞旅行。それはタイトルにもあるように一種の巡礼である。
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