なにもしてない の商品レビュー
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『なにもしてない』 ナニモシテナイ生活ゆえに皮膚病をこじらせる。その状態はひどいものなのに、ナニモシテナイという言葉が呪文のように繰り返され、ナニモシテナイ後ろめたさが人質となり、病院に行くことすらできない。わかってしまうなー、ナニモシテナイ自分が美容院に行くなんて、飲みに行くなんて、とどんどん卑屈で地味な生活に浸っていく感じ(病院には行くけどな!)。何者かであらねば、生産的であらねば、という圧力に、我々は無意識にさらされている。 ナニモシテナイ生活は、家族からの仕送りなしでは成立しない。子を意のままに操り、感情をぶつける母に対する複雑な思い。生きづらさを抱えながらも「書く」ことに対して強い決意を表すような作品だと感じた。 『イセ市、ハルチ』 親類、故郷の呪い。人間には、前を向いて生きるために「忘れる」という脳の機能が備わっている。この物語の主人公は、「故郷」というファイルを丸ごと消去し、さらにゴミ箱も空にしてしまったように何も残っていない。しかし帰郷は、辛い記憶を呼び覚ます行為。「明日また何もかも忘れるかもしれなかった。」という締めの文章が、そうするしか生きる術がない悲しさを物語っている。
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笙野頼子さんの作品はだいたいそうだけど、これも私小説に近いお話。 「タイムスリップ・コンビナート」、「東京妖怪浮遊」ときて著作の癖の強さが印象的だったので、この作品も身構えて読んだのだが、初期の作品だからなのか意外なほど毒が薄かった(この人にしては、だけど)。 淡々と綴られる中に...
笙野頼子さんの作品はだいたいそうだけど、これも私小説に近いお話。 「タイムスリップ・コンビナート」、「東京妖怪浮遊」ときて著作の癖の強さが印象的だったので、この作品も身構えて読んだのだが、初期の作品だからなのか意外なほど毒が薄かった(この人にしては、だけど)。 淡々と綴られる中にみえる心の闇がリアルで、共感できるところもあり、読んだ3作の中では一番好き。 主人公が皮膚を病むのだけど、藤野可織さんの「パトロネ」しかり太宰治の「皮膚と心」しかり、皮膚科の病気というのは文学と縁が深いような気がする。 皮膚科の病気は精神的なものからくることも多いし、病気そのものがもたらす気の滅入りが文学と相性がいいのだと思う。
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