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慶州は母の呼び声 の商品レビュー

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2017/04/22

「慶州は母の呼び声」と「こだまひびく山河の中へ」の2部に分かれている。もともとは別々に出た本を一冊の文庫にまとめたもの。前者では、幼い頃に父母・きょうだいと過ごした戦前の大邱や金泉といった朝鮮半島での日々が描かれる。後者では、1985年に韓国を訪れ、幼い頃を過ごした地を回ったり旧...

「慶州は母の呼び声」と「こだまひびく山河の中へ」の2部に分かれている。もともとは別々に出た本を一冊の文庫にまとめたもの。前者では、幼い頃に父母・きょうだいと過ごした戦前の大邱や金泉といった朝鮮半島での日々が描かれる。後者では、1985年に韓国を訪れ、幼い頃を過ごした地を回ったり旧友と再会したりといった紀行が綴られる。どちらも、平らな目線で書かれていて、知りたかった当時の人々や街の様子がそれとなく感じられる。 戦前の日々は、それとなく宗主国側の立場を感じていたり、父の当時なりのリベラルさゆえの苦悩を感じながら、過ごしていた著者の意識が響く。文章を書く人のなかに外地生まれの人は多いけれど、ここまで日本人としてその後を生きることの希薄さ・違和感と向き合ったことを書いているものを、私は読んだことがなかった。そして今、私自身が韓国に好感を抱いているからだろうが、朝鮮半島でそこに暮らす人々のなかで暮らし満たされていたことと、日本に戻ってからの落ち着かない感じというのが何となく理解できるつもりになるのだ。 1985年の韓国は、発展半ばの勢いと苦難の時代を一息ついた頃で、生き抜いてきた人々のあっけらかんとした明るさ、強さ、真面目さが印象に残る。何ともいいなと思える。それから30年たった今、韓国の街はまた大きく変わったし、習慣や文化も変わっただろうけど、人のどこかに昔ながらのものが残っているような感じがする。のは、好きであるがゆえのひいき目かもしれないし、それを信じたいし、少なくとも日本と同じような変わり方(失い方)はしていないだろうと、やはり思う。

Posted byブクログ