紀ノ上一族 の商品レビュー

久生十蘭(著者)

2015/08/10

日本人がみんなこんなに愛国者であるわけはないし、米国人がみんなこんなに鬼畜であるわけではない。そういう意味では登場人物の造形が単純すぎて魅力に欠ける。ご都合主義的な展開も目立つ。しかしそういうところを差し引いたとしたら、ある一族の二世代にわたるサーガとしての物語の楽しみ、それから、戦争等の過酷な現実をたぶん実際に見た人にだけ可能な情景描写が胸を打つ。「精神の源泉を疲弊させる…」という描写が二回出てくるのですがこれ印象的でした。ほかにも、形容詞がかっこいいです。