動物の人工生殖 の商品レビュー
主に人工生殖の方法について解説している科学書籍。比較的一般向け。 まず始めに、この本を読んだきっかけについて。 恐らく勘の良い人には気付かれているかもしれないけれど、ちょうどこの4月にニュースがあった。ロバート・エドワーズ氏の死去である。エドワーズ氏は、世界初の試験管ベ...
主に人工生殖の方法について解説している科学書籍。比較的一般向け。 まず始めに、この本を読んだきっかけについて。 恐らく勘の良い人には気付かれているかもしれないけれど、ちょうどこの4月にニュースがあった。ロバート・エドワーズ氏の死去である。エドワーズ氏は、世界初の試験管ベビーを誕生させたことで有名であり、2010年度のノーベル医学・生理学賞を受賞している。 また、折よく生命倫理の授業を受けていたこともあり、少しこの辺の分野を勉強してみる気になってしまった。運が良ければレポートのネタになるかもしれない、と思ったのは内緒の話。 さて、この本のタイトルには人工生殖と入っているが、紹介されているのは動物が主体。まあ出版が1990年だし、著者は農学の出身で家畜における人工生殖を念頭に置いているから、仕方がないのかもしれない。 大まかなトピックは、クローン、雌雄の産み分け、遺伝子組換え、凍結保存、キメラ。それぞれ簡単に解説してくれているので、ほとんど無知だった自分にとっては(学部の授業で聞いていたのかもしれないけれど)分野を把握するのに役に立ったと思う。ただ何か深く知りたいという人には向いてない。 あまりここで深く議論することでもないけれど、色々と人の手が加えられている家畜というのは倫理的に考えさせるものがあった。食べられるために生まれ、育てられ、そして死ぬ。自分は実際に体験していないからこんな風にノウノウと生きていられるけれど、現場を見たら三食の食事のありがたみを感じずにはいられないだろう。噂では、生徒に豚を飼わせて、食べるまでを体験させるというような授業も行われているらしい。無視はできないが直視もできない問題である。 それがこの人工生殖によって、さらに選別されているのが現実である。乳牛が欲しいから雌が増えるようにとか、食肉用なら雄の方がいいとか、そういう理由で雌雄に産み分ける技術が使われている。あるいは優秀な個体がクローンで増やされる。それは確かに社会の役に立つことだと思う。だが、もっと生命の倫理を考える機会が設けられて然るべきではないだろうか。顕微鏡の下で細胞をいじめている人間が言うのも何だけれど。 ただ少なくとも、自分たちが笑っていられる理由くらいは知っておきたいと思ったりしたのだった。
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