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モダン東京案内 の商品レビュー

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2024/06/25

 一九八九年から翌年にかけて、平凡社から全十巻刊行された<モダン都市文学>の第一巻。 ・生方敏郎『東京初上り』pp11-74  一九二二年に上野で開かれた平和記念博覧会をきっかけに東京見物に出かけた家族の道中が書かれている。約百年前の東京で、どういう場所が名所とされていたのか...

 一九八九年から翌年にかけて、平凡社から全十巻刊行された<モダン都市文学>の第一巻。 ・生方敏郎『東京初上り』pp11-74  一九二二年に上野で開かれた平和記念博覧会をきっかけに東京見物に出かけた家族の道中が書かれている。約百年前の東京で、どういう場所が名所とされていたのかがわかる。 ・阿部知二『スポオツの都市にて』pp76-103  大学スポーツに絡めた恋愛模様。主に野球とラグビーが扱われている。 ・堀辰雄『水族館』pp106-124  浅草にあった水族館の二階の演芸場に出演していたカジノ・フォリーの踊り子をめぐる恋の悲劇。本書の中で群を抜いた読み応え。 ・ささきふさ『ただ見る』pp125-135  上流階級の夫妻に招かれて出かけたダンス・パーティーで目撃した、ただれた人間模様。 ・浅原六朗『丸の内の展情』pp138-167  うぶな女性だと思っていたら、実はしたたかな⋯⋯という話。 ・龍膽寺雄『甃路スナップ—夜中から朝まで』pp169-193  表題のまま、東京のあちこちの夜中の出来事を、次々と並べた感じ。 ・サトウ・ハチロー『ボクの街—ボクの住む街は夜ばかりである』pp196-213  これも、東京のあちこちの夜中の出来事を次々と並べた作品だが、龍膽寺雄の作品よりも深みがある。 ・妹尾アキ夫『カフェ奇談』pp214-232  お金を盗まれたと思い、取り返したが、実は⋯⋯という話。オチが一捻り効いている。 ・伊藤整『M百貨店』pp233-247  上流階級の女性に恋をする、二人のインテリ男性が街ですれ違う。 ・岩佐東一郎『COCKTAILS』pp250-259  夜中の東京を彷徨い歩く青年の内面を描いた散文詩。 ・水谷隼『空で唄う男の話』pp262-272  ビルとビルの間を綱渡りしてみせる、という男の話。この作品も、本書の中で飛び抜けている。 ・池谷信三郎『おらんだ人形』pp273-301  上流階級の女性と、その女性に性的魅力を感じない二人の青年の話。男女のおらんだ人形が、小道具として使われる。 ・長田恒雄『一九三〇年のアパート挿話』pp304-312  風邪をひいた作者らしき主人公のもとを、次々と女の子たちが訪れてくる。ふーん、モテモテでよかったね、という感想。 ・戸川貞雄『震災異聞』pp314-328  関東大震災で妻と死に別れた男は、災害地の惨状を写真に撮り溜めた。それらの写真は、死体写真を愛好する倒錯した者たちにより闇で取引きされていた。ある日、妙な男が現れて⋯⋯。とても陰惨な話ではあるものの、本書の中で一番優れた作品だと思う。 ・城昌幸『都会の神秘』pp329-337  出だしからおしまいまで、ほとんどタルホ。 ・舟橋聖一『Xマスと危険信号』pp340-348  子殺しの話。本書中、一番陰惨で、救いがない。 ・水島爾保布『新東京繁昌記(抄)』pp351-382  画家の著者による随筆。一九二四年当時の銀座の様子を細く書いている。 ・武田麟太郎『浅草の動き』pp384-389  今度は一九三〇年当時の浅草。街をいく人々の生き様を丁寧に取り上げている。 ・新居格『現代の三頁』pp390-403  モボ、モガという言葉の作り手といわれた著者らしい、なんだか洒落た言葉がずらりと並んだ会話を男女が繰り広げる話。 ・松岡久菶『ステッキ・ガール倶楽部』pp406-415  今でいうキャバクラ嬢との同伴やアフター的なサービスを、一九三〇年頃は、男性がステッキをついて歩くように女の子を連れて歩く、という意味で、ステッキ・ガールって言ったのね、ということがわかる随筆。こんなひどい言葉、なくなってよかったね。 ・林房雄、龍膽寺雄、久野豊彦、浅原六朗、川端康成『省線リレー風景』pp417-440  新興芸術派の作家らによる共作。省線に乗っている様子を書き継いでいくという趣向。 ・岡田三郎、吉行エイスケ、川端康成、浅原六朗、楢崎勤、中村武羅夫、新居格、龍膽寺雄『享楽地漫談会』pp442-466  東京の各地や、海外の都市と比較しながら、ひたすら女を買う話をし続ける座談会。読むにたえない。  月報には、藤森照信『野々宮アパートのこと』と、室生犀星『モダン日本辞典』が載っている。

Posted byブクログ