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本を書く人読まぬ人とかくこの世はままならぬ の商品レビュー

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2022/06/29

本、映画、読むこと、書くこと、観ること、その喜びや快楽や幸福について、或いは批評、多くの場合自らに苛立ちや呆れをもたらす事となる、批評家たちの文章について。如何なる批評の文章や言葉が自らを幸福にするか。出会う事の少ないそれ。〈小説を愛している人は確かにいるのに、同じような愛し方を...

本、映画、読むこと、書くこと、観ること、その喜びや快楽や幸福について、或いは批評、多くの場合自らに苛立ちや呆れをもたらす事となる、批評家たちの文章について。如何なる批評の文章や言葉が自らを幸福にするか。出会う事の少ないそれ。〈小説を愛している人は確かにいるのに、同じような愛し方をしている人間を見つけるのは、どうして、こう困難なのだろう。〉批評に関する金井美恵子の言葉をそのまま、金井美恵子の小説やエッセイが面白い事の、自分にとって、唯一無二の至福である事の、理由としてよい。金井美恵子の小説が楽しくて仕方ないと感じる事の正しさを裏付ける、根拠としてよい。 小説を愛し、小説に愛された体験によって書かれ得た批評に出会うと言う僥倖。小説の愛し方を知り、小説に愛される事の幸福を知る者の言葉に出会う事。読む者を巻き込んでしまうような、読む者を勧誘し、そこに書かれている魅惑へと、すぐさま向かわせてしまうような、魅力と強さを備え、これこそが批評であると確信し得るような。僥倖に出会う事。 そして金井美恵子自身もまた繊細な読者として(と、同時に極めて鋭敏な書き手として)、例えば〈柔らかで毛深くしなやかな猫のいる生活のあたたかな親密さと、その猫を失って以後の、なまなましい空虚〉がこめられた、〈官能的な喜びと悲しみの、てのひらに載せて愛撫せずにはいられない本〉(バルテュスの『ミツ』)について語り、或いは思いもよらぬ二人、東海林さだお(口唇期的喜びに対する深い愛着)と武田百合子(金井美恵子は武田百合子を口唇周辺の人と言う)の共通点を、大いに繊細に、鋭敏に、豊かに、そして快楽的に語ってみせる。〈なまなましい知性、それとも、決して大袈裟になることのない細やかな好奇心が、この二人の、実に身体的な文章家の眼や耳や足や口唇には住みついているらしい。〉 〈…それでも誰もが「小説」を書くのだし、書き終って指を休めて、長期にわたった労働に、甘美に放心し、また書きはじめてしまうらしいのだ。〉『タマや』を〈とても楽しみながら書いた小説〉で、〈まさしく、私が読みたいと思っていた小説〉なのだと語る言葉ににんまりしてしまう。自らの読みたいと思う小説を、楽しんで書くこと。だからこそあんなにも楽しいのだと実感する。 ページをめくる指の喜び、書き終て休める指、書く手の快楽、愛撫する手…指や手について考える。その指、その手によって書かれる。金井美恵子の手は、小説を愛する者の、小説に愛された経験を持つ者の手だ。読む事で魅惑される幸福を知る者の手。そして書くことの快楽を知る者の手だ。その手によって書かれる。その手によって伝えられると言う事。その指の、その手の感じたすべて、魅惑される喜びごと、快楽ごと、幸福なおののきと、おびえごと。手によって、指によってまず触れる。愛し、愛撫する。直に触れた手や指こそが、その魅惑や喜びや快楽を、まず親密に覚えている。その手や指の感覚を、親密なものとして覚えている。感覚としての幸福を覚えていると言う事。手や指によって感じた、感覚としての喜びや快楽をもって語られると言う事。

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2017/10/22

冒頭の「売れようと売れまいと大きなお世話だ」が、今から約30年前の衆参同日選の圧勝を背景にして書かれているのだが、これが現在の状況ともいくらか重なってきていて実に刺激的。当時の文芸界や映画についての批判なども毒っ気たっぷりに書かれているように思うが、刊行当時は当然これが普通だった...

冒頭の「売れようと売れまいと大きなお世話だ」が、今から約30年前の衆参同日選の圧勝を背景にして書かれているのだが、これが現在の状況ともいくらか重なってきていて実に刺激的。当時の文芸界や映画についての批判なども毒っ気たっぷりに書かれているように思うが、刊行当時は当然これが普通だったのだろう。でもその批判にはネガティヴさはないし、嫌っていることにしてもちゃんと建設的な思いも裏には感じられる。あまり絶望していなかったんだろうと思う。だからこそ今読んでよかったのかも。

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2014/11/26

著者の書評、映画評を集めた一冊です。1980年代後半に書かれたぶんしょうなので、今日読むと少し感覚的に異なる部分もあるが、まずは楽しめます。とは言え、著者の「わがままいっぱい」的な趣味とあうか合わぬか、それは貴方の趣味次第なので無理にオススメはしません。そして、著者の文体をお好き...

著者の書評、映画評を集めた一冊です。1980年代後半に書かれたぶんしょうなので、今日読むと少し感覚的に異なる部分もあるが、まずは楽しめます。とは言え、著者の「わがままいっぱい」的な趣味とあうか合わぬか、それは貴方の趣味次第なので無理にオススメはしません。そして、著者の文体をお好きかどうかも大事な問題でしょう。 そういう意味で、私の評価は三ツ星なのですが、「鴛鴦歌合戦」の楽譜を一部分だけでも装丁に入れてあるので四つ星です。

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2014/05/04

金井美恵子のエッセイは初めて。「岸辺のない海」の主人公は作者の分身じゃないかと思うほどのヒネクレたドクゼツっぷりで何度かふいた。春樹ファンは読まない方がいい。84年から89年までに雑誌に書いたもので本や映画、絵についてと書評がある。絵の写真はモノクロなのが残念だ。澁澤龍彦と気が合...

金井美恵子のエッセイは初めて。「岸辺のない海」の主人公は作者の分身じゃないかと思うほどのヒネクレたドクゼツっぷりで何度かふいた。春樹ファンは読まない方がいい。84年から89年までに雑誌に書いたもので本や映画、絵についてと書評がある。絵の写真はモノクロなのが残念だ。澁澤龍彦と気が合って親しかったというのは嬉しい発見だった。芥川賞の候補になって受賞第一作を用意するのが面倒だから外してもらったとか田村俊子賞に決まったが老選考委員の口調がエラぶっていたので喧嘩していらないと言ったとか。金井がますます好きになった。 映画はよくわからないので読み飛ばしたし、姉の久美子との対談『「ブックガイド』批判」は全く同意できなかったけど、書評は読みたい本を何冊かピックアップできたし、猫と犬が出てくる小コントが面白く、俵万智の『サラダ記念日』はメッタ切り、『役たたずの読書』というエッセイでの『写真でみる日本生活図引』の一節は笑った。〈すっかり水を浴びせかけられた気分にさせてやりたい本である〉って。笑 これも毒書だった。 『岸辺のない海』の主人公もそうだけどこれだけ毒を吐いているからこそ「兎角に人の世は住みにくい。」のかなぁ。

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