風媒花 の商品レビュー
「エロ作家」を自称する峯三郎を中心に、「中国文化研究会」のメンバーやその周辺の人物たちが織り成す「戦後」という時間を小説として構成するという試みをおこなった作品です。 「新中国」と「革命」をめぐって、研究会メンバーたちの意識のちがいが衝突を引き起こすことがえがかれるとともに、蜜...
「エロ作家」を自称する峯三郎を中心に、「中国文化研究会」のメンバーやその周辺の人物たちが織り成す「戦後」という時間を小説として構成するという試みをおこなった作品です。 「新中国」と「革命」をめぐって、研究会メンバーたちの意識のちがいが衝突を引き起こすことがえがかれるとともに、蜜枝と桃江という二人の女性の確執や、工場での青酸カリ混入事件、右翼の大物たちの活動などが、速いテンポで劇を見ているかのように眼前に展開されていきます。 著者は『司馬遷―史記の世界』(講談社文芸文庫)のなかで、世界史の空間的な持続についての考察を展開していますが、あるいは著者が司馬遷のうちに読みとった手法を借りて、戦後の日本という歴史の一局面を、さまざまな登場人物たちの空間的な並列を通してえがきとろうとした作品といえるのかもしれません。ストーリーのおもしろさはあまり感じられませんでしたが、戦後文学が取り組んだ時代状況を見てとることができるように思います。
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ここに登場してくる人物はそれぞれ何らかの夢(それは、とてつもなく大きな政治的なものから男と女の恋愛におけるものまで)を持っているのだが、いずれも叶うことなく物語は終わってしまう。そこには、前にも思い切って進めず後ろにも潔く引き下がれない、中途半端な浮遊感が漂っているのだが、人の生...
ここに登場してくる人物はそれぞれ何らかの夢(それは、とてつもなく大きな政治的なものから男と女の恋愛におけるものまで)を持っているのだが、いずれも叶うことなく物語は終わってしまう。そこには、前にも思い切って進めず後ろにも潔く引き下がれない、中途半端な浮遊感が漂っているのだが、人の生涯の実相は意外とこのようなものではないのかと想わせるものがある。
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