氷夢 の商品レビュー
すごい良かった 日本語が綺麗。小説とは言葉の芸術で、その建築に一つの無駄な言葉がないものを指すのだ。そう言われている気分。 「私は歩きながら、いつか山科の主治医の藤倉氏が言った「生存そのもののうらみ」を、思い起した。私たちのそんなうらみは、母親の胎内へ人間の胞子として送りこまれ...
すごい良かった 日本語が綺麗。小説とは言葉の芸術で、その建築に一つの無駄な言葉がないものを指すのだ。そう言われている気分。 「私は歩きながら、いつか山科の主治医の藤倉氏が言った「生存そのもののうらみ」を、思い起した。私たちのそんなうらみは、母親の胎内へ人間の胞子として送りこまれた時から、生ずるという。羊水の中で育ちながら、しだいに自分の無関与のうちに造られたこの生命が、いつか暖い母親の内部から出されることを不安に感じ、それが分娩の苦難と驚きの瞬間、頂点に達する。自分が関わりなく産れたすべてを、自分がひき受けなければならない。こんなうらみの種子が、どんなに肉体が大きくなっても、奥の方に眠っている……。」 「俺たちのいる海冥は遠くにない。この夕暮れの空にまで侵している。」 「船に乗ってた俺たち乗務員や、南方に行く大勢の商社員たちの夢が、海底で氷ったものだ。」 マジックリアリズムと言うと少し陳腐になりすぎてしまうのかな、と言うのもまた陳腐なのかなとも思う、というのも。
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