ゲルマン法の虚像と実像 の商品レビュー
「ゲルマン法」として理解されてきた法的観念の歴史的実像、およびゲルマニステンの政治的立場を詳細に跡づけている研究。日本で行われた三つの講演および四つの論文が収録されている。扱う時代は中世からナチズム期まで広範にわたるが、視角は一定している。すなわち、「ゲルマン法」という観念の歴史...
「ゲルマン法」として理解されてきた法的観念の歴史的実像、およびゲルマニステンの政治的立場を詳細に跡づけている研究。日本で行われた三つの講演および四つの論文が収録されている。扱う時代は中世からナチズム期まで広範にわたるが、視角は一定している。すなわち、「ゲルマン法」という観念の歴史的実像を追うという視角である。まず、フリッツ・ケルンが定式化した「古き良き法」という中世のドイツ的法観念の理念型が、いかなる意味においても存在せず、ザクセンシュピーゲルなどに見られる法観念はすべてキリスト教や教会法、ローマ法に由来することが、豊富な史料的裏づけによって立証されている。「古き良き法」という観念がむしろ近世の法学者によって中世世界に投影されたという研究(村上淳一「「良き旧き法」と帝国国制」)は、このようなクレッシェルのテーゼに負うところが大きい。さらにクレッシェルは、このような「ゲルマン法」観念がいかにして成立し、いかなるイデオロギー的機能を果たしてしまったかを問題にする。そこで特に挙げられるのは、オットー・フォン・ギールケの独特の法理論であり、彼の所有権観念が自由主義的法秩序の相対化に一役買ったとされる。すなわち、ギールケはローマ法的所有権概念とゲルマン法的所有権概念を超歴史的な理念として対立させ、ゲルマン法的所有権概念(ゲヴェーレ)は、所有権に対する制約を内在的に包含していると理解し、これを当時の法秩序の刷新に役立てようとしたのである。このような理解は歴史学的に見て全く成立しない議論であったにもかかわらず、「理念」の次元における対立として、一般に影響力を持ったというのがクレッシェルの見立てである。
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