大アンケートによる日本映画ベスト150 の商品レビュー
本書は1989(平成元)年に発売されてゐます。といふことは、平成の作品は登場しません。しかし、それで良いのです。かういふ、ベスト○○といつたたぐひのものは、最近のものは除外した方が何かと角が立たない。「昭和の邦画ベスト150」と読み替へれば、現在でも十分通用する、まことに充実した...
本書は1989(平成元)年に発売されてゐます。といふことは、平成の作品は登場しません。しかし、それで良いのです。かういふ、ベスト○○といつたたぐひのものは、最近のものは除外した方が何かと角が立たない。「昭和の邦画ベスト150」と読み替へれば、現在でも十分通用する、まことに充実した一冊なのであります。 アンケートの回答を寄せたのは、映画好きの著名人372名。それぞれが皆、お気に入りのベスト10を挙げてゐます。中にはそれほど詳しくなささうな人もゐますが。また、古い人たちの傾向として、 ①最近の邦画は観ないからわからない。 ②劇場でリアルタイムで観たものに限る。後にヴィデオで観たものは除外。 といつた、頑固かつ謹厳実直な姿勢を貫く人が多いやうです。そんな鯱張らずに、もつと気楽にいかうよ。 作品篇・監督篇・女優篇・男優篇でそれぞれランキングを発表してをります。第一位を順番に述べると、「七人の侍」「黒澤明」「原節子」「阪東妻三郎」となるさうです。作品と監督は、2015(平成27)年現在でも、結果に相違はないやうな気がします。一方、原節子やバンツマはもう知らない人も殖えてゐるのではないでせうか。 読み物も粒揃ひであります。まづ巻頭に赤瀬川隼・長部日出雄・藤子不二雄Ⓐの三名による座談会。皆さん本当に詳しい。 そして「ジャンル別マイベスト」。戦争映画とかヤクザ映画とか喜劇映画とか、14のジャンルを設定し、それぞれに思ひ入れのあるであらう人が執筆してゐます。しかし、怪獣映画のジャンルでは、人選を間違へたかも知れません。 圧巻は、井上ひさし氏による「たったひとりで、ベスト100選出に挑戦する!」 井上氏は、アンケートに「10本だけでは酷だ。せめて100本選びたい」と記入したところ、何と編集部から「どうぞ100本選んでください」と返答があつたさうです。やるな。 井上氏はその刹那は小躍りして喜びましたが、実際には、それから100本選び出すまでの四か月間は「地獄だった」と言ひます。ベスト100に入れたい映画が250本以上もある(!)といふことで苦しんだのです。彼の結論は、結局大人しくベスト10だけ選び、あれも入れたかつた、これも選びたかつたとボヤくのが唯一正しい態度だと。 で、井上版ランキングでも1位は「七人の侍」。1位から次点の101位まで、すべての作品にコメントを付けてゐます。面白いのは、比較的上位作品は簡単なコメントに終始してゐたのが、最後の方になるほど(つまり下位作品ほど)、コメントに力が入り、長くなつてゆくところであります。畢竟、何位だらうが、映画好きにとつては構はない、といふことでせうか。 最後に、選出されたベスト150のうち、上位10点を紹介します。 ①七人の侍②東京物語③生きる④羅生門⑤浮雲⑥飢餓海峡⑦二十四の瞳⑧無法松の一生(バンツマ版)⑨幕末太陽伝⑩人情紙風船。ちなみに、わたくしのベスト10と被るのは6位と8位だけであります。 はあ、わたくしの話はどうでもいいですかな。これはご無礼しました... http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-529.html
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映画少女になりたての頃、小学生の時の私のバイブルでした。 小説家・マンガ家・音楽家・映画評論家・新聞記者・映画ファンなど総勢370人が選んだベスト150本の映画の解説をはじめ、赤瀬川隼・長部日出雄・藤子不二雄Aの作品編と個人編(監督・俳優)の座談会あり、ジャンル別紹介のエッセイ...
映画少女になりたての頃、小学生の時の私のバイブルでした。 小説家・マンガ家・音楽家・映画評論家・新聞記者・映画ファンなど総勢370人が選んだベスト150本の映画の解説をはじめ、赤瀬川隼・長部日出雄・藤子不二雄Aの作品編と個人編(監督・俳優)の座談会あり、ジャンル別紹介のエッセイありと、至れり尽くせり総網羅・日本映画のエッセンスを詰め込んだ本です。 この本を読んで、そして個々の映画を実際見ることと、書き手の著作を読むことまでたどるという、長い長い旅が始まったのでした。 辻邦生が私はミーハーだとことわってから岩下志摩の美しさをメロメロになって書き、竹中労が映画評らしからぬ筆致で熱く内田吐夢を語り、田中小実昌が、かる~くなくちゃね、と言って『丹下左膳余話・百万両の壺』『赤西蠣太』『暢気眼鏡』『カルメン故郷に帰る』『満員電車』『幕末太陽伝』『お葬式』『転校生』と次から次へと好きな映画を並べたて、「忍びの者」の市川雷蔵のスピード感を我が逢坂剛が絶賛し、内藤陳がサユリスト(彼はサユリサマストと自称)宣言し、石森章太郎が「高峰秀子讃江」と可憐さを愛で、中野翠が山田五十鈴をデモーニッシュと表現し、猿谷要が「雪国」の岸恵子を知的なひらめきがあると評し、南博が三國連太郎を少なからずホモセクシャルな感慨を混じえて連ちゃんと親しげに呼び、といった風な、みなさんそれぞれの思いを込めて紹介される映画・俳優・監督についての徹底案内本です。 私にとってこの本を開くことは、学校から帰ってからもうひとつ別の、言ってみれば映画の学校で授業を受けるような感じの、しかもそれは本物の学校よりはるかにワクワクする楽しいお勉強ばかりでした。
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