女の記号学 の商品レビュー
タイトルは「女の記号学」ですが、特定の思想的観点から文学テクストを分析している本ではなく、日本の近現代文学のなかで、「女」がどのようにえがかれているのかということを論じた本です。 小林秀雄の初期作品における「狂女」のモティーフの分析からはじまって、谷崎潤一郎『蓼喰ふ虫』、永井荷...
タイトルは「女の記号学」ですが、特定の思想的観点から文学テクストを分析している本ではなく、日本の近現代文学のなかで、「女」がどのようにえがかれているのかということを論じた本です。 小林秀雄の初期作品における「狂女」のモティーフの分析からはじまって、谷崎潤一郎『蓼喰ふ虫』、永井荷風『墨東綺譚』、夏目漱石『坊っちやん』、尾崎紅葉『金色夜叉』、泉鏡花『婦系譜』、近松秋江『黒髪』、川端康成『山の女』、舟橋聖一『ある女の遠景』、瀧井孝作『無限抱擁』、徳田秋声『仮想人物』などの作品が分析の俎上に上げられています。 著者は「あとがき」で、「女は言外の想いを託するのに、文字記号以外の者、つまり眼差しや化粧や衣装などという“記号”を効果的に用いながら生き、愛し、喜び、悲しみ、傷ついているけれども、作家はその“記号”を、やはり文字記号を用いて暗示し、描写しなければならない」と述べています。つまり、文学テクストにおける記号とファッションや振る舞いなどの記号とのあいだに位相差があり、そのことが文学のなかの「女」の謎を構成しているとともに、文学テクストを通してわれわれがテクストの「深層」へと誘い込まれるという構造を可能にしているということができます。著者は、テクストという「表層」の記号を分析しつつ、そこに「深層」の謎めいたエネルギーが浸透していることを解明しようとしています。
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