雪の花 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
種痘の普及に努めた福井の町医者。 京都から福井へ接種済みの幼児を連れて、家族も連れて1日35キロの強行移動。2メートルの積雪の中でも休まず、相当な信念を感じた。 米原長浜を越えて木之本にはいると急に北国という印象を受ける。好きな土地。雪中の峠越えの恐ろしさをやたらおどろおどろしく描写していないところが気に入った。しかしそれでも十分に恐怖は伝わってき、好きな文体。
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★3.5 幕末、日本に於いて初めて種痘の『普及』に努めた医師たちの物語。 身分や組織、平民たちの価値観との闘いが様々に繰り広げられる分、リアルな苦悩を感じられた作品。 ありがとう という一言につきる。
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天然痘の予防接種 情報化社会の現代でも、コロナワクチンへの恐怖がある。何も情報がないなかで、子供に傷をつける、と言われて、渡す親がいないのは、よく理解できる。 そこの苦労を丁寧にかきあげていて、素晴らしい。
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吉村昭氏の文献の読み込み、取材力の賜。 私財をなげうち、天然痘の予防接種に尽力した医師の話。 いかに予防接種(種痘)が大事であるかを医師がわかっていても、未知なるものに対する恐怖があり、接種を怖がるのは、いつの時代でも同じか。 鎖国下の日本。西洋から持ち込まれた最先端の医療...
吉村昭氏の文献の読み込み、取材力の賜。 私財をなげうち、天然痘の予防接種に尽力した医師の話。 いかに予防接種(種痘)が大事であるかを医師がわかっていても、未知なるものに対する恐怖があり、接種を怖がるのは、いつの時代でも同じか。 鎖国下の日本。西洋から持ち込まれた最先端の医療技術=種痘(予防接種)と痘苗(ワクチン)に対する、偏見や不理解は、想像に難くない。
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吉村昭氏にはまってます。精力的に詳細な調査の裏付けに基づいた作品は説得力があります。この作品も読み始めたら止まらなくなります。主人公と作者の情熱がダブルで迫ってきます。この主人公のような生涯をかけての努力によって、今の我々の幸せがあることを実感します。吉村氏のおかげで先人の偉業を...
吉村昭氏にはまってます。精力的に詳細な調査の裏付けに基づいた作品は説得力があります。この作品も読み始めたら止まらなくなります。主人公と作者の情熱がダブルで迫ってきます。この主人公のような生涯をかけての努力によって、今の我々の幸せがあることを実感します。吉村氏のおかげで先人の偉業を知れて感謝です。
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江戸時代に流行した感染症である天然痘の予防接種に尽力した医師の話。 医師は、西洋から伝わる予防接種を気味悪がる人々や漢方医術の医師からの妨害等、様々な障壁に立ち向かう。 人が感染症に苦しめられる歴史は繰り返す。 人を介して病気が拡散していく以上、それを封じ込めるのも人の考えや...
江戸時代に流行した感染症である天然痘の予防接種に尽力した医師の話。 医師は、西洋から伝わる予防接種を気味悪がる人々や漢方医術の医師からの妨害等、様々な障壁に立ち向かう。 人が感染症に苦しめられる歴史は繰り返す。 人を介して病気が拡散していく以上、それを封じ込めるのも人の考えや行動次第であるというのは、今も昔も変わらないということを思い知らされる。
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S46執筆「めっちゃ医者伝」の書き直しとか。筆者が心血を注いできた医療モノの流れ、かつ天然痘3部作に入れる意気込みが伝わってくる。 時は幕末、福井藩。かの春嶽を藩主とする雄藩であり左内がいる‥民の暮らしは貧しく、考え方は固陋。筆者が得意とする「綿密な資料研鑽」と巧みな関係者から...
S46執筆「めっちゃ医者伝」の書き直しとか。筆者が心血を注いできた医療モノの流れ、かつ天然痘3部作に入れる意気込みが伝わってくる。 時は幕末、福井藩。かの春嶽を藩主とする雄藩であり左内がいる‥民の暮らしは貧しく、考え方は固陋。筆者が得意とする「綿密な資料研鑽」と巧みな関係者からの語りだしから紡ぎ出した崇高な作品に仕上がっている。 最初に手を差し伸べてくれた京都の蘭方医鼎哉。江戸方に仕える藩医半井等の助けもあり途を突き進む。 クライマックスは京都からの福井行。11月末でこの状況・・当時の地球気候が驚くほど冷え込んでいると仰天。 栃ノ木峠を越えるところは凄まじい苦行。大人子ども合わせて12人が日に35キロも歩いたというのは今では想像を絶する。嶺北と言われるかの地は北陸道へかかるところ・・今でも 奥琵琶湖から長浜、そして今庄を走ると当時の情景を思い起こさせられる。高度としてさほどでもないこのエリア、一旦雪が降ると 背丈をゆうに超す積雪。 昨今のコロナ情勢と照らし合わせて読むと当時も今も原点の部分は同じに思えた・・固陋な役人と同僚の医師たちの醜さ、それに踊らされる一般の民。良亮が幾度となく死を決意した場面に涙が出てくる。 彼を挫けさせたのは痘種の根絶やしの危険。怯える親が子供に発痘の施術をさせないのだ。もっとも保身に汲々とする藩の役人の仕業に拠ってのものだが。その後、大坂緒方洪庵や加賀藩、信州象山の元へも種が行っている。 彼の死去は明治13年・・藩主春嶽が辿ったであろう風雲が影を落としていないのが僥倖か。
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吉村昭×疫病といえば「破船」が印象深いが、「北天の星」「花渡る海」そして「雪の花」は天然痘3部作と呼ばれるらしい。子どもの頃、世界中の歴史的な出来事をカレンダーのように紹介する本で、5月の出来事として、ジェンナーが子どもに牛痘を接種したというエピソードを強烈に覚えていて、それは同...
吉村昭×疫病といえば「破船」が印象深いが、「北天の星」「花渡る海」そして「雪の花」は天然痘3部作と呼ばれるらしい。子どもの頃、世界中の歴史的な出来事をカレンダーのように紹介する本で、5月の出来事として、ジェンナーが子どもに牛痘を接種したというエピソードを強烈に覚えていて、それは同じ頃読んだ「ベルばら」でルイ15世が罹った天然痘はメチャメチャ恐ろしいとすり込まれたこともおおきいが、子どもに牛のなにかを植え付けるその本の挿絵の不気味さもあいまって、私の脳裏に刻まれていた。「雪の花」ではその種痘を子供から子供へ移していく様子が描かれる。私の中で勝手に気持ち悪いイメージが肥大化していたが、今、こうして正確な描写をされるとなるほどそういうことかと落ち着いて受け止められる。こういう冷静で詳細な描写が吉村昭作品にリアリティと信頼性をもたらしている、と同時にすごい熱量で何かをしようとする登場人物の行動が上滑らない。 幕末、福井藩の町医者が種痘を広めようと取り組む話。この時代は何かしようとすると平気で10年くらいの単位で時間がかかる。笠原良策は、蘭学に出会って京都で学び、種痘を知ってそれを何とか福井藩に広めたいと努力する。福井藩といえば松平春嶽!上の方は開明的なのだが現場のお役人たちはものすごく封建的で、笠原良策が種痘を持ちかえってからとてもとても苦労した。京都から福井へ種痘を持ち帰る際、幼児と両親の十数名での冬場の山越えの場面は、ここで遭難したら一貫の終わりだが、一方で種痘を絶やしてはならないという時間制限もあって緊張する。しかし、この難所よりもその後の福井藩での活動の方がずっと大変だった。笠原良策は諦めずに役所への嘆願を続け、ようやく開明派のトップが江戸から帰ってきて、事態は動き始める。 吉村昭が最初にこの本を書いた当時から新たに資料が見つかり、それにあたった結果、間違いがあったことを恥じているという後書きに、この人の誠実さを感じた。
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使命感を持って生きれるってすごいことだし、この人が世のためにしたことは素晴らしいということは間違いないけれど、この人にももっと楽な生き方があったのではないかと思ってしまう。 最終的に報われたと言えるけれど…
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※このレビューにはネタバレを含みます
淡々とした描写で読みやすく、しかし登場人物の内面まで踏み込んだ内容で小説として面白い。昨今の情勢と照らし合わせてみえてしまうのは、いつの時代にも同じ問題があるということなのだろう。人の無知に、本書ではお上の力で対処したが、あらゆる情報が溢れる現代ならばどのように対処するのが正しいのか。答えは簡単なものではないが、本書では良策の信念が道を開いたように、現代でもそのように模索していくしかないのであろう。
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