蜘蛛女のキス の商品レビュー
アルゼンチンの監房を舞台に、政治犯のインテリ革命家と映画マニアの中年ホモセクシュアルの間に生まれる不思議に切ない絆を描いた作品。モリーナが語る映画の物語は陳腐なメロドラマだが、美しい映像が目に浮かぶような陶酔に満ちた口ぶりが何より魅力的で、「崇高な」政治思想を抱いているヴァレンテ...
アルゼンチンの監房を舞台に、政治犯のインテリ革命家と映画マニアの中年ホモセクシュアルの間に生まれる不思議に切ない絆を描いた作品。モリーナが語る映画の物語は陳腐なメロドラマだが、美しい映像が目に浮かぶような陶酔に満ちた口ぶりが何より魅力的で、「崇高な」政治思想を抱いているヴァレンティンもやがてその大衆的な生の魅力に惹かれていく。現実を超越した美や愛にひたるモリーナ、現実を変える使命感に追い立てられるヴァレンティン、互いに心通わす中で生まれる優しい感情は、確かに絆ではあるけれども同じベクトルで結ばれたそれではなく。モリーナの「愛」とヴァレンティンの「現実」は同一のものにはならないが、それでも結果として互いの中に残った互いへの情は意味のある、美しいものだったと感じられる。情景は一切描かれない、会話文のみで淡々と綴られる二人の物語は、舞台版とはまた違った切ない虚しさと感傷を残す。
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牢で同房になった二人の男の会話がほとんどすべてを占める小説。 男の一人は政治犯のバレンティン、もう一人は未成年者を誘惑した罪で服役中のモリーナ。モリーナは、ホモセクシャルと書かれているけれど、今でいう性同一性障害というか、自己のアイデンティティは完全に女性、という人物。 モリ...
牢で同房になった二人の男の会話がほとんどすべてを占める小説。 男の一人は政治犯のバレンティン、もう一人は未成年者を誘惑した罪で服役中のモリーナ。モリーナは、ホモセクシャルと書かれているけれど、今でいう性同一性障害というか、自己のアイデンティティは完全に女性、という人物。 モリーナは古き良き昔を愛する保守的な中年の庶民で、理性より感性を大事にするタイプ。かたやバレンティンはブルジョア出身のインテリ革命家であり、若き理論家。全く相いれなそうな二人だけれど、人懐っこく世話好きのモリーナと、根は甘えん坊のボンボンであるバレンティンの間には、だんだんと情が育まれていく。 とはいえ結局二人ともそれぞれの価値観を貫くし、裏の事情や思惑やどんでん返しがあったりして、一筋縄ではいかないのだけれど、それでも他に頼る人もない二人の、理解しあいたい、分かち合いたい、気持には切実なものがあり、胸を打つ。 人間は一人では生きていけないし、目の前にいる人を、分かりたい、分かってほしい、抱きしめたい、抱きしめてほしい、と思うものなのかもしれない。たとえ全く相手と生き方が違っても。 そして忘れられないのが、モリーナが語る映画の数々。映画の内容が、二人の思いや運命を暗示しているだけでなく、男らしさを重んじるラテンの社会で、おそらくは「オカマ」として常にさげすまれてきたモリーナの、唯一のよりどころであり逃げ場であったのが、克明に記憶されたこれらの映画だったのであろうことが、おそらくもとになった映画の魅力を超えて、彼女の語りに輝きを与えている。 多少留保をつけるとすれば、作者の分身なのかも知れないモリーナの圧倒的な存在感に比べて、バレンティンは若干都合のいいキャラクターになっている気もした。 若き革命家って、もっと独善的で聞く耳持たない人種じゃないかという気もするけれど。 このころの革命は家や恋愛に関する既存の価値観をも壊すものだったのかもしれない。
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同じ部屋に収監された 囚人の男二人。ひとりはオカマ。 夜、眠れるまでオカマが話す「映画」。話だけで、映画が楽しめるとは思わなかった。 本当にその映画を見ているような気分になる。 ふたりの関係が変化していくのが面白い。
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モリーナが語る映画の話が面白い。ところどころにハッとさせられる一言が。面白かったのでオリジナル読破に挑戦します。
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全編が会話、地の分がない。そしてその実験的な形式にもかかわらず、単純に面白い。それは二人の主人公の一方が一方にかたる映画の話が、それだけでも魅力的だからだ。ゴチック体部分の解釈など腑に落ちぬ部分があり、私自身理解できていないところもあるのだろうが、それでも楽しめた。あと訳で工夫し...
全編が会話、地の分がない。そしてその実験的な形式にもかかわらず、単純に面白い。それは二人の主人公の一方が一方にかたる映画の話が、それだけでも魅力的だからだ。ゴチック体部分の解釈など腑に落ちぬ部分があり、私自身理解できていないところもあるのだろうが、それでも楽しめた。あと訳で工夫した部分があると思うので、途中までよんでから驚いてほしい。
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ホモである男性が、一緒に牢獄に入っている男に映画の話をしていく、という形のストーリー。 全部で5,6個の話をするんですが、どれも悲しい話で・・・切ないのです。 最初は物語がつかめずに戸惑いますが、話を楽しめるようになれば、どんどん進んでゆきます。 そして、ああ!! 想像...
ホモである男性が、一緒に牢獄に入っている男に映画の話をしていく、という形のストーリー。 全部で5,6個の話をするんですが、どれも悲しい話で・・・切ないのです。 最初は物語がつかめずに戸惑いますが、話を楽しめるようになれば、どんどん進んでゆきます。 そして、ああ!! 想像できるのにしたくない、悲しいラストです。 とってもおススメ。
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ゲイの中年男とノーマルの若者。 刑務所で同室になった二人が孤独を共有していく話。地の文はなく、物語はほぼ会話文で進行していきますが、場の情景は不思議なくらい鮮明に頭に浮かんできます。 二人の境遇も、関係も、ゲイのモリーナが語る映画の内容も、物語の結末も、すべてが切ない。
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語ることの喜びと哀しさ。哀しい結末に、二人の心は実は、最初から最後まですれ違ったままだったのではないか? と思うかもしれない。言葉によって、あたかも互いを分かり合えたかのような幻想を抱いていただけではないのか、と。しかし、語らなければその幻想すら抱くことは出来なかった。それは幻...
語ることの喜びと哀しさ。哀しい結末に、二人の心は実は、最初から最後まですれ違ったままだったのではないか? と思うかもしれない。言葉によって、あたかも互いを分かり合えたかのような幻想を抱いていただけではないのか、と。しかし、語らなければその幻想すら抱くことは出来なかった。それは幻想ではあったが、語っている時、二人は同じものを見ていたのだ。 ややこしいことを考えずとも、話自体が面白いです。眠れない夜に、テキトーなページを開いて、二人の会話を盗み聞きするように読むと、いつの間にか寝ています。
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監獄の中で同居する、若き革命家とホモ。 どこにも行き場のない、絶望の中にあって、ホモの囚人が語るいくつかのB級映画の内容が、極上の作品であるかのように輝いているのが哀しい。
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人物2人の会話だけでもこうも魅せる物語が作れるのか、と吃驚します。 作中モリーナが語る映画を実際に観てみたい。
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