シブミ(下) の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
下巻は一転してニコライの趣味ケイヴィング(洞窟探検)から始まる。つまりこれは上巻が静であったのに対し、動の下巻が始まりますよという作者からのメッセージなのだ。そしてこれが崩壊への序曲。書き忘れたが物語の骨子はローマ空港で虐殺されたユダヤ人報復グループの生き残りの女性が殺し屋ニコライに助けを求めるという物だ。この生き残りの女性ハンナの敵というのがCIAをも傘下に治めるマザー・カンパニーという巨大組織なのだ。「個」対「組織」の戦いは自然、安定した暮らしの崩壊をもたらす。 ニコライは家も日本庭園もマザー・カンパニーに破壊され、日本人の妻も失明する。 もちろんこれこそニコライが敵に報復するための行動原理になるわけだが、上巻で彼の生い立ちと彼の所有物がたっぷり詩情にも似た情感を持って語られるだけに大きな喪失感を読者に与える。これこそ作者の狙いなのだろうが、やはりなんとも哀しいものだ。 しかし、『このミス』1位は伊達ではなかったとの思いを強くした。このトレヴェニアンは寡作家でもあったので、ちょうど集めるには良かったのである。が、しかし目的の『夢果つる街』は実はこのとき絶版であったのだが・・・。
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