新モーツァルト考 の商品レビュー
研究が進んでいる分野の本は、原則として新しい本を読んだ方が良い。それは、過去の研究結果が反映され、集合知が積み重ねられていくためである。 本書は、1987年の発行だが、1984年にNHK教育で放映された「NHK市民大学」の「新モーツァルト考」のテキストを主体としている。2024...
研究が進んでいる分野の本は、原則として新しい本を読んだ方が良い。それは、過去の研究結果が反映され、集合知が積み重ねられていくためである。 本書は、1987年の発行だが、1984年にNHK教育で放映された「NHK市民大学」の「新モーツァルト考」のテキストを主体としている。2024年の現時点から見れば、40年も前に書かれたことになる。このような本をこれから読む価値があるのかと問われると答えに窮する。 内容はTV番組用に用意されたものとはいえ、門外漢には優しいとは全く言えない。すでにモーツァルトのことをよく知っているモーツァルト・ファンでないと理解するのは難しいのではないかと思う。 著者はモーツァルト研究の第一人者である海老沢敏氏なので、内容の信頼度や正確性は高い。が、私個人としてはモーツァルトに関する本は何十冊と読んでいるので、新たに目を開かせてくれるような文章には出会えなかった。つまり、門外漢には敷居が高く、マニアには物足りないと言えるだろう。発行当時は中級者には適していただろうが、今となっては、誰に対してもお勧めしにくい。 また、NHK市民大学のテキストを主体とするという出自のせいもあるだろうが、文章は説明的で固い。いわば、教養のために作られた文章であり、面白みが少ないこともマイナス要因である。 本書の構成は、下記の全17章からなっている。NHK市民大学の放送は全13回だったが、時間の関係で放送では扱えなかった4章分を追加したとのことである。 1.モーツァルトの発見―「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の魅力と謎 2.ザルツブルクの神童―「ナンネルルの楽譜帳」 3.モーツァルトの音楽環境―音楽家たちの薫陶 4.少年モーツァルトのイタリアの旅―ミラーノ宮廷劇場の祝典劇 5.モーツァルトをめぐる音楽家たち―クレメンティとの競演 6.ヴィーンのモーツァルト―ヨーゼフ2世の時代 7.フリーメイスン結社とモーツァルト―モーツァルトの精神世界 8.声楽曲の世界―歌詞と楽音による情緒表現 9.教会音楽家モーツァルト―モーツァルトの教会様式 10.名作オペラの表現世界―永遠のレパートリー 11.器楽曲の世界―楽音と形式の響宴 12.シンフォニスト・モーツァルト―ソナタ形式とソナタ楽曲の境域 13.愛と友情の音楽表現―体験としての音楽 14.十八世紀の響き―モーツァルトの作品と演奏 15.モーツァルト真贋―「モーツァルトの子守歌」 16.モーツァルト・ミステリー―「レクイエム」問題と毒殺説 17.永遠のモーツァルト―2世紀のモーツァルト鑽仰
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モーツァルトの作品の主なものをジャンルごとに分析しつつ、これまでのモーツァルトその人やそ作品の扱われかたを解説することによって、モーツァルト像が浮かび上がってくる。これまで持っていた漠然としたイメージから、より深いものを得られたように感じる。
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