渡来銭の社会史 の商品レビュー
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1987年刊。著者は和歌山大学経済学部教授(経済原理)。 表題は「渡来銭の社会史」だが、もう少し広く史的に「銭・貨幣」を巡る経済・社会問題(租税他、政治も若干関連する)を幾つかの側面で解読する書と言えそう。 具体的には ➀ 貨幣貸の成立と、その社会的・政治的意義(中世後期の室町時代中心。一揆論も)。 ➁ ➀と同時期に盛んに貨幣利用を進めた地域、つまり都市論(特に京都の生活の内実)。 ③ 日本における貨幣変遷(古代の皇朝十二銭~中世の輸入銅銭~近世の三貨)。 ➃ 中世における貨幣の日欧比較。 ➄ 貨幣の意味に関する通史的理解。古代の呪術的・官位獲得手段(蓄銭叙位令)→中世以降の経済発展に伴う物との交換・流通機能→多数種貨幣間での交換機能(近世の三貨制度)。 という具合である。 教科書的な貨幣の歴史を、中世を中心にして少し深めながら、経済学における貨幣論のとっかかりの部分を、歴史の流れと歴史上の事実に即して(多少の脱線も含みつつ)解説してもらった。そんな印象の残る著作である。 ところで、備忘録。撰銭とグレシャム法則。 撰銭は通貨通用力を持つ権力が希薄な中、複数通貨が流通する場合、低価値の通貨を強制通用させる公権力がないため、通貨受取人に通貨選択の優先権が齎される。 結果、良貨は悪貨を追放する。これが室町時代の現象。 他方、グレシャム法則とは、通貨の強制的通用力を持つ権力が存在する中、額面共通なのに価値の違う通貨が流通する場合、通貨の払渡人が自らの利益のために悪貨のみを利用。 結果、悪貨は良貨を駆逐する。これが江戸時代(特に後期)の現象。 両者は銭の選択・選り好みの点で共通するが、内実は完全に違う。
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