デカルトと近代理性 の商品レビュー
近代科学的世界観との関わりを中心に、デカルトおよびその周辺の思想家について論じている。 まず取り上げられるのは、デカルト哲学における数学的自然学と形而上学との関係である。著者は、デカルトがそれまで支配的だった実体形相に関する議論をしりぞけ、物体界の現象は自然科学的な方法によって...
近代科学的世界観との関わりを中心に、デカルトおよびその周辺の思想家について論じている。 まず取り上げられるのは、デカルト哲学における数学的自然学と形而上学との関係である。著者は、デカルトがそれまで支配的だった実体形相に関する議論をしりぞけ、物体界の現象は自然科学的な方法によってよりよく説明されるということを認めていたことを論じるとともに、そうしたデカルトの自然科学的世界観が、永遠真理創造説を含む彼の形而上学に支えられていたことを明らかにしている。ついで、デカルトの同時代人であり論敵でもあったP・ガッサンディとレギウスの思想が検討されている。これらの議論によって、当時の自然科学と哲学との関わりの一端を知ることができる。 また、デカルトと異なり経験論の立場を標榜するロックの哲学が検討されている。ロックは、私たちの視覚を通じて物体の延長、形、数、運動などの一次性質が知覚されることを認めていた。だが、なぜこれらの性質が、二次性質とは違って特権的に物体そのものの類似物を表わしているということができるのだろうか。 著者によれば、ロックは一次性質の観念を直接的で受動的な観念とは考えていない。たとえば形の観念は、「延長ないし仕切られた空間の終端部分相互の関係にほかならない」といわれているように、精神による諸部分間の関係の考察を経てはじめて知覚にもたらされる。それゆえ、一次性質の観念は感覚の観念というよりも、知性の「判断の観念」と考えるべきだと著者は主張する。コインを斜めから見るとき楕円に見えるが、私たちはこのとき丸いコインを知覚しているということができるのはこのためだ。一次性質の観念が物体と類似的だというのは、こうした判断を経由した知覚のレヴェルで主張されているのである。 そのほかには、事物の本質についてのロックの唯名論的見解が検討されている章や、いわゆるモリヌークス問題についてのロック、バークリ、コンディヤックらの見解を論じた章、コンディヤックの哲学における、思考における記号の役割を重視した『人間認識起源論』の立場から、習慣的・技術的な思考の捉え方を採用して記号と観念との連続性を主張した『感覚論』の立場への変遷をたどった章、ポパーの三世界論と、それに対してM・ブンゲが物的一元論の立場からおこなった批判を検討した章などがある。
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