1,800円以上の注文で送料無料

科学社会学の構想 の商品レビュー

4

1件のお客様レビュー

  1. 5つ

    0

  2. 4つ

    1

  3. 3つ

    0

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2020/08/26

「ハイサイエンス批判」というサブ・タイトルは、科学をひたすら真理を追究する営みとみなす立場を批判して、科学者の活動をひとつの世俗的な活動に引きおろすことを意味しています。こうした著者の観点に立つとき、科学はそれを取り巻く国家・社会・文化などとのあいだで人・カネ・モノ、そしてなによ...

「ハイサイエンス批判」というサブ・タイトルは、科学をひたすら真理を追究する営みとみなす立場を批判して、科学者の活動をひとつの世俗的な活動に引きおろすことを意味しています。こうした著者の観点に立つとき、科学はそれを取り巻く国家・社会・文化などとのあいだで人・カネ・モノ、そしてなによりも情報をやり取りしている「開いた系」とみなされることになります。 マートンが掲げた科学者のエートスは、真理を追究する科学者の「あるべき」規範であり、現実の科学者の活動を記述したものではないと著者は批判します。その一方で著者は、クーンのパラダイム論に立脚するいわゆる「新科学哲学」の推進者たちも、分析対象である専門分野の研究文献を正確に読み込んでその社会的側面を検証するのではなく、おおまかなストーリーの制作に終始していると批判しています。 さらに、「知のアナーキスト」を標榜するファイヤーアーベントに対しても、なぜ現実に科学と呼ばれる特定の知的形態に特権的地位があたええられているのかということが彼の立場では解き明かされていないといい、いわゆるニュー・サイエンスに対しても同様の観点からの批判が展開されています。著者は、そうした認識論的な観点からの科学批判に終始していては、科学の社会学的側面に対する緻密な考察はおこなわれず、批判されるべき対象の所在をつかむことさえできないだろうと述べています。 著者も、クーンの影響のもとに生まれた他の科学論者と同様に、科学的知識の社会的構成を分析することをめざしています。しかし著者は、相対主義的な認識論の議論には足を踏み入れず、特定の専門領域で複数のパラダイムがせめぎあう場面に着目し、それぞれの位置を具体的に測定することの必要性を説きます。こうした著者のアプローチは、あくまで実証主義的な態度で科学という営みを分析するものといってよいと思われます。

Posted byブクログ