音楽(3) の商品レビュー
『朝日新聞』に連載された「音楽展望」および「音楽会批評」を収録しています。 「はじめに」で著者は、本シリーズに収録されている連載がはじまる直前の1967年から68年にかけてヨーロッパに滞在していたことに触れています。ヴェトナム戦争やパリの五月革命などの事件があり、日本でも大学紛...
『朝日新聞』に連載された「音楽展望」および「音楽会批評」を収録しています。 「はじめに」で著者は、本シリーズに収録されている連載がはじまる直前の1967年から68年にかけてヨーロッパに滞在していたことに触れています。ヴェトナム戦争やパリの五月革命などの事件があり、日本でも大学紛争が全国にひろがっていました。そうした時代にあって著者は、「自分が国の内と外で感じたり考えたりしたこと、それから国の内と外とで起っていることの間にある共通性と相違、そういうものの何かが、私にささやきかけたり、私をゆすぶったりしたことが、多かれ少なかれ、私がそこに書くものに影を落すことになったのではないかしら」と振り返っています。 本書では、エッシェンバッハについて書かれた文章が、著者の芸術観をよく示しているように思います。才能にあふれながらも時代の空気に染まりどこか危うさのあった若いころの彼の演奏を聞いた著者は、その後の彼がモーツァルトのピアノ協奏曲を作品の文脈になだらかにしたがいながら奏でるすがたを目にして、「モーツァルトの音楽が存在しているということに、この人は心から感謝しているに相違ない。自分の中で渦巻く暗いパートスから解放する力をもった、この芸術があるということに」と感想をつづっています。 こうした著者の芸術観は、教条的なマルクス主義の上部・下部構造論や、新左翼の理論にしたがうならば、「ブルジョワ的」とひとくくりにされてしまうのかもしれませんが、ことばを通じて音楽の魅力を開陳する本書に収められたエッセイの数々が、そうした抽象的な理論による裁断を許さない、著者のまなざしのたしかさを示しているような気がします。
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(1996.05.30読了)(1986.04.16購入) 吉田さんが朝日新聞に掲載した「音楽展望」と「音楽評」をまとめたものです。 1978年から1981年までの分が収録されています。
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