100分間で楽しむ名作小説 たけくらべ 角川文庫

樋口一葉(著者)

• 販売会社／発売会社: KADOKAWA
• 発売年月日: 2025/06/17
• JAN: 9784041163917

商品レビュー

2025/11/23

樋口一葉文学忌、一葉忌

『たけくらべ』は、1895年（明治28年）1月に雑誌『文学界』に発表された作品です。樋口一葉にとって、最も世に知られることになった代表作のひとつであり、彼女の文名を確立させた短編でした。発表当時から高い評価を受け、森鷗外は「一葉の文は女流としてではなく、明治の文学として第一流である」と絶賛しています。そうした背景もあり、『たけくらべ』は近代文学史に名を残す作品として位置づけられています。

初めて『たけくらべ』を読んだのは小学生のころでした。もちろん原文ではなく、雑誌の付録についていたコミカライズ版で、ストーリーも大幅に単純化されていましたが、その小冊子を何度も読み返した記憶があります。
一方、あの原文に触れると、句読点がほとんどなく、会話文さえ句点でつなげられているため、雅文体がさらさらと流れていくのに慣れない方は、手に取っても読み進めるのが難しいかもしれません。
近年は会話に鉤括弧を入れ、句読点を施した文庫版も刊行されていますので、これまで読了に挫折してしまった方も、ぜひ一度そちらで挑戦してみていただきたいと思います。

物語は吉原大音寺前に住む少女・美登利と、僧侶の息子・信如との淡い心の交流を軸に展開します。祭りや遊びに夢中になる子どもたちの日常が描かれる一方で、美登利はやがて遊女となり、信如は僧として生きるという、それぞれに定められた道へ進んでいきます。周囲の子どもたちもまた、職人や商家の子として、親の意思で決められた未来を当然のように受け入れていきます。

彼らの姿には、運命に従いながらも誰を恨むでもない、ただ静かにその環境を受け止める悲しさがあります。そこにこそ『たけくらべ』の哀感があり、今も読む者の心を揺さぶり続ける所以なのだと思います。

『十三夜』1895年　「文藝倶楽部」
一見すると「明治期の女性の生き方」を描いた小説に見えます。資産も地位もある男に嫁いだ娘が、夫の冷酷さに耐えかねて実家に戻る―そこまでは「典型的な嫁入りの悲哀」と読めます。両親は「世間並みの理」を説き、娘に辛抱を求める。ここで物語を閉じれば、当時の女性の境遇を描いた社会小説になったでしょう。

しかし一葉は、あえて帰り道にかつての恋人を登場させます。しかも彼は落ちぶれていて、彼女の境遇と対照を成す。この場面が作品に複雑さを与えていて、「結婚と恋愛」「資産と愛情」のどちらが女性にとって救いなのか、あるいはどちらも救いにならないのかを、読者に考えさせます。

だからこそ読後に「結局何を言いたいの？」という感覚が残るのですが、むしろその答えのなさが、『十三夜』を単純な教訓小説にせず、時代を越えて読まれる文学にしているのだと思うのです。

2025/07/23

2作とも本当に美しい文章。
時代もあって切ない恋の行方なんだけども、いかんせん自分に学がないので100分では読めないし、すっとは入ってこない。