遥かなる未踏峰(上) ハーパーBOOKS

ジェフリー・アーチャー(著者), 戸田裕之(訳者)

• 販売会社／発売会社: ハーパーコリンズ・ジャパン
• 発売年月日: 2024/04/18
• JAN: 9784596775962

商品レビュー

2024/08/03

2024年は登山家ジョージ・リー・マロリーの没後100年という。

全然知らない名だったが、この言葉は聞いたことがあった。
「あなたはなぜ山に登るのか」
「そこに山があるからだ」
ああ、そう答えた人かあと、私は膝をうった。
ところが翻訳者あとがきによるとちょっと違うらしい。

『実はそれは間違いで、本当は「なぜエヴェレストに登りたかったのか？」と訊かれて、「そこにエヴェレストがあるからだ」と答えたというのが事実のようです。』（下300頁）

ジェフリー・アーチャーの話はどれも面白い。
主人公は魅力的な好青年で、いろんな困難にあうけれども、必ずや最後にはあっと鮮やかにうまくいく。
この「あっと鮮やかに」がよくて、我々読者はハラハラドキドキしながら読んでしまうのだ。

それが今回は、ない。

実話を元にした話だから、エンディングは変えようがないのだ。
話の冒頭部分では、マロリーの遺体が発見されている。

また、ジェフリー・アーチャーの書く主人公には、必ずや賢明な恋人／愛妻がいる。
主人公とその恋人との溺愛っぷり、いちゃいちゃぶりに、読者は苦笑しながらも「いいなあ」と読み進めるのだ。
それが今回は涙をさそう。

マロリーが愛妻にむけてまめまめしく書いた手紙がふんだんにある。
この溺愛しあった夫婦の先を、しかし、読者は知っているのだ。

上巻は間違いなく面白い。
主人公は上り調子。
少々の困難も、彼の気転と、知恵と、運でうまくいってしまうのだ。
それが下巻の半ばを超えた頃だろうか、ふと、主人公の行き着く先を思い出してしまう。

いやいやマロリー、
行っちゃダメだよマロリー、
でも止めようがないマロリー、
ああ、行っちゃったよマロリー、
マロリー･･････

本が終わる頃、私はみるみる元気がなくなってしまった。
2011年に新潮文庫から出版されたものを、マロリー没後100年を機に再版したものという。

登山に興味がある人もない人も、是非。