事例でみる企業不正の理論と対応

八田進二【監修】, ディー・クエスト, 日本公認不正検査士協会【編】

• 販売会社／発売会社: 同文舘出版
• 発売年月日: 2011/10/17
• JAN: 9784495197117

商品レビュー

2018/09/01

著者の高林氏は民間企業にて企業不正事案のデータ分析、不正リスクマネジメント関連業務に従事されています（発刊当時）。

本書は、基礎理論編（「不正のトライラングル」の紹介、内部統制システムによる抑止）、実践編（日本で発生した１０事例の紹介、分析、対応策の検討）からなり、経営者、内部管理や監査部門で働いている方には一読いただきたい本です。以下、簡単に紹介していきます。



まず、基礎理論編。「不正のトライアングル」について。米国の犯罪学者、クレッシー氏の唱えたもので、不正行為は①動機（不正行為を実行することを欲する主観的事情）、②機会（不正行為の実行を可能ないし容易にする客観的環境）、③正当化（不正行為の実行を積極的に是認しようとする主観的事情）、の３要素からなるもので、この全てが揃って三角形が完成したときに、不正行為が達成される、という概念です。例えば、従業員が会社資金を横領する場合、①借金を抱えていた（動機）、②唯一の経理担当者として、誰にも気づかれることなく資金を使い込むことができる（機会）、③自分は正当な評価を受けてきておらず、本来あるべき報酬との差額分を回収するだけ（正当化）、という「三角形」が形成されているのです。これに対し、「内部統制システム」の「リスク管理システム」としての機能によって、不正リスクの上記３要素を抑止することが必要であるが、３要素全てを抑止できずとも、１つだけでも不正行為の発生を阻むことができる。例えば、会社資金の横領の場合、経理についてダブルチェックを確立する（機会の抑止）、適切な人事評価の実施（正当化の抑止）など。

実践編においては、日本で発生した様々な「不正」が紹介されるとともに、不正のトライアングル理論による分析、防止策の提言が行われています。１０事例が紹介されています。それぞれの事例において「動機」「機会」「正当化」３要素の分析に加え個別的な考察が行われており、例えば事例３（ライブドア粉飾決算事件）においては、「経営陣による組織ぐるみの会計不正」と「社内の一部署における会計不正」を区別し施策を講じるべき、といった提言がされています。

本書の発刊は平成23年であり、最近の製造業における品質偽装事件等は触れられていません。また、コントロールにおける有力な手段と考えられていた内部通報制度について、日本版司法取引制度導入後の会社と従業員の利害関係の変化（内部通報で会社の自浄作用を期待するよりも、お互い（会社が従業員を、あるいは従業員が会社を）を検察に売ってしまって自らの刑事罰軽減を図るほうが得）を踏まえた提言を期待したいところです。

200ページ余りで理論と実際の適用を概観することができ、現時点においても十分読む価値のある本と思います。

2013/03/30

少し前に買い求めていたのですが，もっと早く読めばよかったと思いました。企業不正，企業不祥事に関するコンプライアンス，コーポレートガバナンス，リスク管理，内部統制システムといった諸概念と「不正のトライアングル」を組み合わせて，「機会」を抑止するために内部統制の６つの要素に欠陥がないかを確かめ，「動機」，「正当化」を抑止するため，「統制環境」に着目する，というもので，なるほど，大変参考になりました。それを具体的な事例を用いてケーススタディを展開するので，ますます実践的です。