シックスポケッツ・チルドレン 集英社文庫

中場利一【著】

• 販売会社／発売会社: 集英社
• 発売年月日: 2010/01/25
• JAN: 9784087465310

商品レビュー

2022/06/21

ケンカ・補導・非行・貧乏・家庭不和…物騒で荒っぽくてつくづくとんでもない人たちだなあと思いつつも、毎日を全力で生きぬいている姿が羨ましいような気持ちにさせる、岸和田市に暮らす小学生達のエネルギッシュな青春の日々。

解説で重松清先生も挙げているが、本作の柱はヨコワケだと思う。私もこのキャラがすごく好き。
登場直後のヨコワケは転校がちな家庭事情から友達の作り方がわからず、一緒に遊んだ子供たちにお金を配る事で友人関係を構築・維持しようとするようないけすかない哀しきお坊ちゃんといった風情だったが、ヤンチやジーエらとつるむ内に実に強く逞しく成長してゆく。眩しいぜ。

そして主人公・ヤンチの一家、父・一夫と母・静子も大概な人らである。
一夫に関しての悪評は挙げればキリが無いが、人柄を端的に抜き出せば「雨が降っただけでも機嫌が悪くなり、道行く人を片っ端から殴るような」(p294)人物。ような、と言われても戸惑ってしまうが。
静子はとにかく一夫に振り回されたり手を上げられたりと苦労描写が絶えず、その度に家出を繰り返しては「いつものように帰って来て、何もなかったかのように」(p91)振る舞う。家出がライフワークみたいな人。
この夫婦も主に一夫のせいで毎日衝突ばかりだし酷い貧乏に喘いではいるが、何故だか不思議と悲壮だとかは感じない。いや、ヤンチ当人は大変だと思うが、持ち前の明るさと強さで「両方ともオッケー・モッケーやん。」(p279)と呑み込めるくらいの器を持ち合わせている。

ヤンチを筆頭に、基本的に壮絶な境遇の子供たちばっかりが登場するが、決して彼らが腐らないという信頼感があるからこそ、読み手も安心してエンターテイメントとして楽しめるのだろう。

言いたいことを言い合って、体ごとぶつかっていって分かり合う、みたいなのは現代日本では’スマートでない’’粗暴だ’などと敬遠されがちな風潮だけど、せめて家族間でだけでは遠慮や忖度を抜きにして、感情を丸裸にして付き合っていけたらいいな、と思いました。
その為には、言いたいことやりたいことを一方通行で投げっ放しにせず、受け取って容れられるだけの’自己成長’が欠かせないのだろうと意を新たにした次第であります。

実に心踊らされた家族小説でした。

1刷
2022.6.21

2014/06/10

大阪南部の田尻町で起こる小学生の日常を綴ったような小説。大人の身勝手さの中でも、一生懸命生きて成長していくことがかいまみえて読後のすっきり感が心地いい。

2012/01/13

いやーーー野蛮な世界だし、方言もあるし、
私の知ってる子供時代とは大きく違うんだけれども、
都会に出てきている田舎出身の人ってのはこういう違う世界も
同時に持っているなんてずるいな、って思った。
特に心に残ったのが、子供に何かあったら怒鳴りこんでくる親と
怒鳴りこんでこない親が描かれた「透明人間」。
うちの夫は、怒鳴りこんでくれないタイプだなぁ、私は一人憤って
ドキドキしながら一人怒鳴りこみに行くだろうなぁ、と考えて読んだ。
一夫みたいなタイプ最低だけれども、いざというときに必ずいてくれる
頼もしさ、わかりやすい単純さ、大らかさ、男らしさ、なんだか
憎めないなぁ。