マダムはディナーに出られません の商品レビュー
ヒラリー・ウォーの『マダムはディナーに出られません』は、裕福な未亡人の失踪を端緒に、彼女を取り巻く人々の内面を深く掘り下げる心理サスペンスである。物語は、夕食に現れないマダムを巡り、屋敷にいる者たちの思惑が交錯するところから始まる。 本作の構成は、複数の人物の視点から事件が語ら...
ヒラリー・ウォーの『マダムはディナーに出られません』は、裕福な未亡人の失踪を端緒に、彼女を取り巻く人々の内面を深く掘り下げる心理サスペンスである。物語は、夕食に現れないマダムを巡り、屋敷にいる者たちの思惑が交錯するところから始まる。 本作の構成は、複数の人物の視点から事件が語られる点に特徴がある。長年仕える使用人や遺産を期待する親族など、各人物が提示する断片的な情報から、読者は事件の全容を組み立てていく。この多角的な視点は、単なる推理の材料にとどまらず、語り手たちの真意や隠された感情を考察する機会を提供する。 ウォーの筆致は、登場人物たちの内面に潜む欲望や不安を緻密に描き出している。金銭がもたらす人間関係の歪みや、階級社会における葛藤が物語の基盤となっている。物語は静謐な雰囲気で進行し、派手なアクションやトリックに頼ることはない。その代わりに、張り詰めた心理的な緊張感が物語全体を支配している。 本書は、古典的なミステリーの枠組みを利用しつつも、人間の本質を探求する文学作品としての側面が強い。表面的な謎解きを超え、登場人物たちの心に巣食う闇や多面性を浮き彫りにする。この物語が提示するのは、一つの事件を通して露呈する、人間の複雑な内面についての考察である。
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ディナー・パーティに招かれた私立探偵シェリダン・ウェズリー夫婦。しかしパーティを主催したヴァレリー・キングが不在。ヴァレリーの死体をシェリダンが発見する。招かれた客たちは互いに知り合いでもなく、何故招かれたかも知らないと証言する。 ヒラリー・ウォーは昔何冊か読んだけど、雰囲気がなんだか違う気が。ただこの感じは好きなので良かった。ウェズリー夫婦のやり取りが良いし、容疑者たちや警察関係のキャラも良く読みやすい。他のヒラリー・ウォーの本も読まないとな〜。
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「この町の誰かが」がとてもおもしろかったので、もつとこの著者のを読んでみたいと思い読んでみた。これはデビュー作て、初邦訳されたのが新刊で出ていた。デビュー作はあまり話題にならなかったとあつたが、なるほどそうだろうと思う。さる富豪女性のパーティに招待された男女8人。いつまでたっても...
「この町の誰かが」がとてもおもしろかったので、もつとこの著者のを読んでみたいと思い読んでみた。これはデビュー作て、初邦訳されたのが新刊で出ていた。デビュー作はあまり話題にならなかったとあつたが、なるほどそうだろうと思う。さる富豪女性のパーティに招待された男女8人。いつまでたっても主人は出てこず、 ・・・と早くも冒頭で、こりや主人は死んでるな、どんな謎解きがなされるのか? と期待はふくらむのだが、期待はあえなく急降下。 これは、パーティの招待客でもあつた、私立探偵と担当刑事の、推理過程のチグハグぶりのせいだと思う。特に探偵は妻と招待され、夫婦での行動となるのだが、この探偵夫婦の描写と会話が、どうも肌に合わなかった。47年に男性によって書かれたものだなあ、という感じ。当時の型どうりの男女描写。 しかし、43年後1990年の「この町の誰かが」では、登場人物の描写は、俯瞰して、うーん、と唸るものになっている。 著者も進化したのかな。 1947発表 2025.7.20初版第1刷 図書館
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