帰れない探偵 の商品レビュー
あまり読んだことのないタイプの小説だった。 「事務所への帰り道がなくなった」という第1話の設定では、 不条理もの、あるいは幻想小説の類かと思ってましたが、 それ以外のエピソードは超現実的な要素はなく、 「探偵の世界組織」など架空要素を織り交ぜた現実世界で繰り広げられる。 「政治...
あまり読んだことのないタイプの小説だった。 「事務所への帰り道がなくなった」という第1話の設定では、 不条理もの、あるいは幻想小説の類かと思ってましたが、 それ以外のエピソードは超現実的な要素はなく、 「探偵の世界組織」など架空要素を織り交ぜた現実世界で繰り広げられる。 「政治体制が変わった日本らしき国」 「不穏な動きが垣間見える大手ITプラットフォーマー」 といった舞台装置とともに繰り広げられる、 決して華々しくはない、行き場のない探偵の物語。 ふと「10年ぐらいあと」の自分と世界に思いをはせてみたくなる。
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柴崎さんの新作は、タイトルから想像したようなミステリーではなかった。広い意味でミステリーといって差し支えないとは思うが、犯人探しや謎解きの要素はあまりない。 収録された7篇はどれも同じ文章で始まり、同じ文章で終わる。知らない街に赴き、そこで探偵仕事をする。小出しにされる情報を繋ぎ...
柴崎さんの新作は、タイトルから想像したようなミステリーではなかった。広い意味でミステリーといって差し支えないとは思うが、犯人探しや謎解きの要素はあまりない。 収録された7篇はどれも同じ文章で始まり、同じ文章で終わる。知らない街に赴き、そこで探偵仕事をする。小出しにされる情報を繋ぎ合わせていくと、この世界が見えてくる。 タイトルの「帰れない」には2つの意味がある。1つは自宅兼事務所に「帰れない」。もう1つは自分の国に「帰れない」。そこにはどんな意味が込められているのか。 最初は乗れなかったが、徐々に面白くなった。
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そこそこの探偵小説マニアで、柴崎友香マニアでもある私には、この組み合わせの意外性には期待値MAX!謎もあり、日常もあり、ちょっとしたハードボイルド風味もありで、期待値を軽々超えて来るのだから、さすが!それにしても、なぜ“探偵”?と思っていたら、MONKEYの柴田元幸さんからの執筆...
そこそこの探偵小説マニアで、柴崎友香マニアでもある私には、この組み合わせの意外性には期待値MAX!謎もあり、日常もあり、ちょっとしたハードボイルド風味もありで、期待値を軽々超えて来るのだから、さすが!それにしても、なぜ“探偵”?と思っていたら、MONKEYの柴田元幸さんからの執筆依頼がキッカケだったと、ポリタス石井千湖さんの沈子黙読で作者本人からお聞きできて、嬉しさ倍増。おもしろかった。
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「今から十年くらいあとの話」で始まる7章からなる探偵物語。 訳あって、色々な国に行くのだが、国の名前は明かさず、話は進んでいく。想像しながらあの国かしら、いや架空の10年先の国か?仮名のあの人は何人?と、探偵と共に手探りで進んでいく不思議な世界。 上手く解説できないけれど、今...
「今から十年くらいあとの話」で始まる7章からなる探偵物語。 訳あって、色々な国に行くのだが、国の名前は明かさず、話は進んでいく。想像しながらあの国かしら、いや架空の10年先の国か?仮名のあの人は何人?と、探偵と共に手探りで進んでいく不思議な世界。 上手く解説できないけれど、今も混沌としているけれど、10年先はさらにこんな感じになっていくのかと想像できる興味と怖さがある。 さて、結末はどう解釈すればよいのだろうか? なんとももどかしい・・・
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初読み作家さんの小説 タイトルと書影と そしてなんといっても 斎藤真理子さんの帯文に惹かれて読み始めた なんだかホワッとしていて よくわからなくて でも浅いところで惹かれていくような... この真夏の日ではなく もっと涼しくなってから ほんのり日が暮れ始めた頃に もう一度読み...
初読み作家さんの小説 タイトルと書影と そしてなんといっても 斎藤真理子さんの帯文に惹かれて読み始めた なんだかホワッとしていて よくわからなくて でも浅いところで惹かれていくような... この真夏の日ではなく もっと涼しくなってから ほんのり日が暮れ始めた頃に もう一度読み返してみたいなぁ と思ったり
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終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため 終わらない歌を歌おう 全てのクズどものため 終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため 終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように なるほどね〜 なんだかよく分からな〜い時間が最後までゆ〜っくり流れて、最後にちょっとだけ分かったような...
終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため 終わらない歌を歌おう 全てのクズどものため 終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため 終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように なるほどね〜 なんだかよく分からな〜い時間が最後までゆ〜っくり流れて、最後にちょっとだけ分かったような気にもなる 不思議なまま終わるけど、終わっていないような気にさせる 『帰れない探偵』は最後に帰ってきたようにも、やっぱりどこにも帰れなかったようにも思える 何も書かれていないように思えて、全て書かれていたような気もする つまりはザ・ブルーハーツなのだ!
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『 今から十年くらいあとの話。 わたしは、急な坂を上っていた。 こんなに急な坂の街に住むのは初めてで、住み始めてからひと月近く経っていた。 』―『帰れない探偵/急な坂の街で』 本当にこれは柴崎友香の新作なのだろうか?と一瞬頭の中の感受機能が停止する。最初の文章から強烈...
『 今から十年くらいあとの話。 わたしは、急な坂を上っていた。 こんなに急な坂の街に住むのは初めてで、住み始めてからひと月近く経っていた。 』―『帰れない探偵/急な坂の街で』 本当にこれは柴崎友香の新作なのだろうか?と一瞬頭の中の感受機能が停止する。最初の文章から強烈に感じる仕掛け。この伏線めいた投げ掛けはどのように回収され得るというのか。そして小さな謎めいた符牒。名前に現れる数字、一ノ瀬、二宮、三田、四元、小五郎。唐突に打ち切られる連鎖。また現れる別の種類の符牒。柴崎友香らしくない、仕掛けに満ちた連作短篇。 『ただし、停電は街の半分だけだった。急斜面にびっしりと並ぶ高層ビルや住宅のきっちり西側半分だけが、暗くなった。湾のあちらとこちらで真ん中で線を引いたように分かれていた。「きれい」と、この街での最初の依頼者、一之瀬さん(仮名)はうっとりした声で呟いた。停電は、ほんの十分ほどのことだった。消えたときと同じように何の前触れも音もなく、夜景は元に戻った』―『帰れない探偵/急な坂の街で』 ああ、やっと人心地の着いた文章に巡り合い呼吸のリズムを取り戻す。そう、この描写。何も言っていないようで何かの思いに充ち満ちた文章。これが読みたかったのだ。ここには何か思わせぶりなものはない。そんな事をしなくてもこの作家の文章は饒舌でかつ表情豊かなのだ。それでも積み残された謎はどんどんとその嵩を増し、無視できない存在となる。ただし、それが解決されることは決してないのだろうということには、途中から気付いてはいる。気付いてはいるけれど、ほんの少し何かが起こる予感、あるいは起こって欲しい期待が膨らんでいくことは抑えられない。 初出の記録を見ると、この作品が最初から連作短篇を意図したものではなかったように見える。あるいは単に柴田さんがそんな作家の意図を汲み上げる余力が無かっただけなのか。二篇目に置かれた作品は発表媒体は異なっているものの連作であることを方向付ける作品構成となっている。その慣性は三篇目以降での主人公の自由な飛翔を支える土台を構築する。だが、そんな大袈裟とも見える構成の中で、例えばトム・クルーズの活躍するような虚構をこの作家が書き綴るとはやはり思えない。そんな思考の寄り道を繰り返しながら読み進める。 そういえば最近この作家のSNSでは社会性のあるメッセージに対するリツイートが多かったな、と最終盤まで読み進めてから唐突に思い起こす。それもわざわざ媒体を変えて。などと書くと少々変質者的尾行者の響きがするだろうか。そこはほぼデビュー作以降追いかけているファンの呟きとして聞き流してもらいたい。ただ、その行動様式の変化が、この作品が書かれた理由とは決して無関係ではないと思う。良いこととか悪いこととか決めつけたい訳ではないけれど、何か言っておかなければならないという気持ちの昂ぶり。そんなものを作品全体から感じてしまう。 ただし、そんな気持ちの勢いだけで物語の開いた輪を閉じることは出来ない。エピローグ的な一篇は何も解決するわけではないけれども気持ちを落ち着かせるエピソードとなっている。そうせざるを得ないのだな、と少し斜め上から読む。もちろんその流れに気持ちよく寄り添いはする。そして、当たり前のことだが、伏線めいた事柄は何も回収されることはない、そのことに何故か安堵の気持ちを覚えるのだった。
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・とても良いな〜。 ・はなからミステリとして読むつもりはなかったけれど(いや、その要素もあるのだけど)、何かずっと夢の中にいる様な小説で、その夢も悪夢とも、楽しい夢とも言えない様な。 ・その世界の不安定さが、主人公の覚束なさとイコールにもなっていて、かろうじて「探偵」という職務が...
・とても良いな〜。 ・はなからミステリとして読むつもりはなかったけれど(いや、その要素もあるのだけど)、何かずっと夢の中にいる様な小説で、その夢も悪夢とも、楽しい夢とも言えない様な。 ・その世界の不安定さが、主人公の覚束なさとイコールにもなっていて、かろうじて「探偵」という職務が物語を進めていく、っていう。 ・最後、その世界も含む覚束なさの中で、自分の足場らしき物を獲得する(かな?)っていう、エモい〜と思ってしまった。 ・ぽやんと抽象化された小説世界だけど、まさしくこれは現実の世界だし、主人公は自分の事だった。好き。
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「これは、今から十年くらいあとの話。」というフレーズがとても印象的。 急な坂ばかりの街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街、太陽と砂の街… 世界のあちこちを飛び回っている探偵の物語。 どこか懐かしかったり、SFっぽさを感じたり… 喧噪を感じたり、静寂を感じたり… なんだか足...
「これは、今から十年くらいあとの話。」というフレーズがとても印象的。 急な坂ばかりの街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街、太陽と砂の街… 世界のあちこちを飛び回っている探偵の物語。 どこか懐かしかったり、SFっぽさを感じたり… 喧噪を感じたり、静寂を感じたり… なんだか足元が落ち着かない気分で読んだ。 読みながら自分自身がきちんと物語を理解できているのか不安な気分に… 多分、雰囲気と世界観を味わう作品なのではないだろうか。 不思議な読後感の不思議な物語。
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〈今から十年くらいのあとの話。〉という印象的な文章が、各章の一文目に置かれている、〈探偵〉の物語。前ではなく後の未来から、欠けてしまったものとあとの自分が様々な(寓話的な)土地を巡っていく様子が綴られていきます。帰ることのできなくなった探偵の行く街には、強い雨が降っていても傘を差...
〈今から十年くらいのあとの話。〉という印象的な文章が、各章の一文目に置かれている、〈探偵〉の物語。前ではなく後の未来から、欠けてしまったものとあとの自分が様々な(寓話的な)土地を巡っていく様子が綴られていきます。帰ることのできなくなった探偵の行く街には、強い雨が降っていても傘を差さない町もあれば、急勾配にも程がある街もあったり……。 決して難しい言葉が並んでいるわけではなく、澱みなく読んでいるのに、ちゃんと読めているのか自信がなくなって落ち着かなくなってくるところがあり、その一筋縄でいかない奥行きのある世界が魅力的にも感じられました。〈探偵〉の〈居場所〉とはなんなのでしょうか。ラストは鮮やかな光が射すようで、とても好きでした。
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