人間の本性を考える(上) の商品レビュー

スティーブン・ピンカー(著者),山下篤子(訳者)

2025/03/16

1. 生まれと育ちの相互作用
- 心の形成において、遺伝子（生まれ）と環境（育ち）の両方が重要であることを強調。
- 他方の説明が排除されることは、両者の重要性を適切に説明できていないことを示す。
- 遺伝と環境の影響の割合については明確な結論が得られていない。

2. 遺伝と環境の重要性
- 成長過程での体験は、遺伝的要因と同じく重要である。
- 行動が遺伝的であっても、環境要因の影響を受けることが多い。
- 現代の研究では、文化的伝統や親の行動が子どもの行動に大きな影響を与えることが示唆されている。

3. 物議を醸す著作の引用
- リチャード・ハーンスタインとチャールズ・マレーの「ペル曲線」：アメリカ黒人と白人のIQ差は遺伝的要因と環境的要因の両方によると論じた。
- ジュディス・リッチ・ハリスの「子育ての大誤解」：子どものパーソナリティは環境だけでなく遺伝子による影響もあると主張。
- ランディ・ソーンヒルとクレイグ・パーマーの「レイプの自然史」：レイプは文化的要因だけでなく、男性の性質にも根ざしていると論じた。

4. 教育制度の変化
- 幼稚園や孤児院、少年院など、新しい制度が設立され、子どもの成長が重視されるようになった。
- 社会的な問題は自然に消えるものではなく、適切な育成環境を提供することが必要とされる。
- 社会科学者は、人間には平等な潜在能力があると信じ、その前提を補強することを仕事とした。

5. 行動主義と心理学の歴史
- 現代心理学はジョン・ロックに始まるプランク・スレート（心は空白である）に由来。
- ジョン・スチュアート・ミルは、プランク・スレートの心理学を政治的に適用し、社会の状況改善を支援した。
- 人間の性質の違いは、環境の違いによるものであるとする傾向が強いが、これは社会問題への合理的な対応を妨げる要因となる。

6. 行動遺伝学の発見
- 遺伝子は行動やパーソナリティに影響を与えることが示されており、行動が遺伝的であることに関する理解が進んでいる。
- 内向性や外向性、神経質さなどのパーソナリティ特性は、遺伝の影響を受ける。
- 人間の性質を理解するためには、遺伝的要因と環境的要因の両方を考慮する必要がある。

7. 脳の可塑性と環境の影響
- 脳は経験によって変化し、特定の環境に適応する能力を持つ。
- 脳の発達は、胎児期の活動や環境からの刺激によって影響を受ける。
- 近年の研究は、脳の構造が遺伝的要因によって決定されることを示している。

8. 進化生物学と人間本性
- 人間の本性を探求する新しい科学が進展し、人間の行動や性質に対する理解が深まっている。
- 文化や環境に依存せず、人間には共通の心理的特性が存在することが明らかになってきている。
- これにより、政治的な理念や社会構造への影響が考え直されるべきだとされる。

9. まとめ
- 本書は、遺伝と環境の相互作用が人間の行動や性質を形成する重要な要素であることを示している。
- 現代の科学的発見に基づき、伝統的な見解に挑戦し、より深い理解を促す内容となっている。
- この理解は、教育や社会政策、個人の行動に影響を与える可能性がある。