映画興行分析 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
少し前の新聞書評(日経新聞)で見かけて手にした。 「ウェブで毎週連載されてきた映画の興行分析をまとめたもの」 と冒頭紹介されている。 個人の映画評でもなく、太鼓持ちのレビューでもなく、淡々と毎週の興行ランキングを並べ、寸評を述べていく。約9年(2016~2024)、実に400本以上もの原稿と、本書のために年ごとの年間ランキング・ベスト10と合わせ、総評が述べられている。 折しも、わが家が映画をよく見るようになった年と重なる期でもあり興味深く拝読。 この10年(兆候から含めれば20年)の間に進行した「邦高洋低」の傾向が、顕著に見て取れる、実に俯瞰的に楽しめる。著者の見事な分析力に脱帽だ。 我が家としては、2019年までは、まだ海外旅行もするなど、機内上映で、いわゆる娯楽作も見ていた時代から、徐々に、いわゆる単館系と呼ばれるニッチな作品へと嗜好を移しつつ、コロナ禍を経て、配信で落穂拾いもするようになったという鑑賞傾向も見て取れた。 週次のランキングと、年間ベスト10の両方を見比べると分かる。ポッと封切直後はランクインするもののすぐに消える小作品は見るものの、そうした作品は年間興行上位には入ってこない。 見る作品が単館系になるに従い、週次ランキングにも出てこないような作品鑑賞が増えると、本書で取り上げる作品は未見の作品だらけ。年間50本以上劇場鑑賞するわが家の鑑賞作品が、年間ベスト10には1作も入ってないなんて年もあった(2021年)。 そんな推移も眺めつつ、なぜ興行的なヒット作を観なくなってきたのかも考えるに、洋画のシリーズ、フランチャイズ化によるマンネリ感もさることながら、邦画、とくにアニメ作品の台頭が大いにある(それが本書が指摘する、邦高洋低の傾向を推し進める要因でもある)。 近頃、アニメ作品にも観るに値する、しっかりした内容、独特の世界観、メッセージの含まれるものがあることは分かってきたし、日本のアニメ界の確かな技術と、そこに集う才能の豊かさにも着目している。 が、やはりアニメ作品には、なかなか食指が動かない。 邦画が、日本国内でだけしかヒットしない時代から、ようやく世界への門戸が拓かれつつある動きも、この10年で見られた大きな胎動だとも思う。 作品を自分たちで売っていくマーケティングの手法にも変化があることも後半語られている。 邦画はさらに大きく飛躍する可能性を秘めている。 定点観測だから見えてくる、大きな「うねり」を体感できる。ちょっとした辞書、百科事典なみの鈍器本だが、これは持ってて損はない。 願わくば、この続きの10年も、是非また、俯瞰してみたいと思うところ。 映画ジャーナリストとしての著者のご活躍に、引き続き期待したい。
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