文豪たちの関東大震災 の商品レビュー
芥川龍之介や川端康成、志賀直哉、室生犀星、菊池寛といった近代文学の所謂文豪たちが残した関東大震災について記された随筆や小説を集めたアンソロジー。 川端康成が1929年芥川龍之介の自死後に雑誌「サンデー毎日」に書いた「芥川龍之介氏と吉原」という随筆目当てで購入。これは震災直後に川...
芥川龍之介や川端康成、志賀直哉、室生犀星、菊池寛といった近代文学の所謂文豪たちが残した関東大震災について記された随筆や小説を集めたアンソロジー。 川端康成が1929年芥川龍之介の自死後に雑誌「サンデー毎日」に書いた「芥川龍之介氏と吉原」という随筆目当てで購入。これは震災直後に川端康成が芥川龍之介のもとを訪ね、今東光を含めた3人で被服廠跡地と並んで被害の多かった吉原へ被災地見物に出掛けたときのことを回想したもの。現代の倫理観だと完全にアウトだが、当時は地方から見物に来た観光客相手に被災地の絵はがきを売っていたという話もあるのでさほど問題とされるような行為ではなかったのだろう。この時の件、芥川龍之介は特に書き残してはいないようだが、今東光は何か書いていないのだろうか? 気になる。 面白かったのは、芥川龍之介の「大震前後」と芥川龍之介の妻である文が書いた「追想 芥川龍之介」や、宇野千代「生きていく私」と、当時宇野千代と不倫の関係にあった尾崎士郎の「狂夢」を並べて収録している点で、同じ出来事を描きながらも書き手の視点で印象が違う。妻の視点からすると芥川は随分カッコウを付けているなぁという感じだし、宇野千代と尾崎士郎では朝鮮人の暴徒が襲ってくるというデマに惑わされて屋根裏に逃げ込んだときに考えていることが全く違っているのが面白い。 あと、印象的だったのは菊池寛の人の良さ。芥川がデマに惑わされて陰謀論めいたことを口に出しても、即座にそれを「嘘だよ、君」と退けたり、連絡がとれず行方不明になった横光利一を探して幟を立てて探し廻ったり、久米正雄が死んだ場合の残された久米正雄の母の行く末まで心配したり、人気役者の澤田正二郎のために着るモノを用意したりと「菊池寛のちょっと良い話」がてんこ盛りである。 最後に収録されている詩人で評論家の加藤一夫の小説「皮肉な報酬」は朝鮮人の始点から震災を描いたもので朝鮮人に対する流言飛語で徐々に不穏になっていく状況は恐ろしい。が、加害者側である日本人が被害者である始点で語ることにちょっと引っかかる部分はある。 巻末には、関東大震災に関連する雑誌記事のリスト、さらに掲載されたQRコードからは一般図書などを含むより広範な関連作品リストを参照することができるのは良い。
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