飢えた潮 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
すごく大きな小説だった。インド・コルカタの南、マングローブと無数の水路に囲まれた島々が舞台で、イラワディ・カワイルカという種のイルカを追う女性研究者と、伯父の遺したノートを読むためにこの田舎に帰ってきた起業家が主人公。 女性を口説いて軽くいなされてたりなどインドコメディ的な部分もあるけど、島の凄惨な歴史、信仰、飢餓や嵐や人食い虎に毎日人が死ぬという入植時からの厳しい暮らし、登場人物たちそれぞれの人生と思いという多様な要素が最後の嵐でぐちゃぐちゃに混ざり合い、ひとつになるような構成に圧倒された。作中の時間はそんなに長くない(せいぜい10~14日くらい?)はずなのだが、何年も旅をしてきたみたいな気分になる。 文盲の地元漁師と子供、女性研究家の組み合わせが楽しくて好きだったのでラストはつらかったが、収まるところに収まったともいえるので納得ではあった。やもめになった妻が腕輪を壊すのは前にインド映画で見たことがあって、目に焼き付くような美しくはじけ飛ぶカラフルな腕輪を思い出してしまった。 しかし悲劇や歴史の披露に終わらず先への希望もしっかりと用意されていて、インドのパワフルさを胸いっぱい吸い込むことができた気がする。圧倒的な自然にすべてを飲み込まれ、なおも湧き上がってくる人間の希望。続いていく暮らし。元気がもらえる小説だった。
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読まなければ決して知り得ない世界がある、それがこの類の本。 未完成な潮の国、インドガンガー河口に広がる大マングローブ地帯シュンドルボン、その地域を巡る悲しい歴史と、自然環境、手付かずの自然の中に生息するイラワディ・カワイルカの生態について。 それから、ピヤとフォキル、カナイの人...
読まなければ決して知り得ない世界がある、それがこの類の本。 未完成な潮の国、インドガンガー河口に広がる大マングローブ地帯シュンドルボン、その地域を巡る悲しい歴史と、自然環境、手付かずの自然の中に生息するイラワディ・カワイルカの生態について。 それから、ピヤとフォキル、カナイの人間模様や、ニリマとニルマルの夫婦の平行線の思惑とか、内容は盛りだくさん! 虎と鰐との死闘まであり、ハラハラドキドキも。 そして蟹について。蟹の体にびっしりと生えている毛は砂の一粒一粒に付着した栄養素をこすりとり、森の清掃人。蟹がいなければマングローブの森林は維持されず蟹こそが生態系全体の中枢種である!そんな事、この本を読まなければとても知り得ないし、興味深かった。 それと素晴らしかったのはこの日本語訳。ボキャブラリーの豊富さ、的確さ、少し難しい言葉もあったけど、だからこそ伝わる文章の深さというのか、私には語彙力がないので、その素晴らしさを表現するのは難しいけれど…。 たくさんの人に読んでほしい物語です。
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歴史、神話、貧困に格差、気候変動に人間の営み。 張り巡らされた水路の如く、小説内に迷い込むと同時に、全てが高潮のごとく小説内に飲み込まれていることに至る。 なおマングローブ林を翔けるイワラディカワイルカ、検索したら充分可愛かった。
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