うたに刻まれたハンセン病隔離の歴史 の商品レビュー
第120回アワヒニビブリオバトル テーマ「音楽」で紹介された本です。ハイブリッド開催。 2024.11.5
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沢知恵さんが全国の国立ハンセン病療養所を巡り、それぞれの園歌を探究したもの。沢さんはこのテーマで論文を書いていて、この冊子はそのエッセンスをまとめたような位置づけ。 全国の国立ハンセン病療養所13か所のすべてに園歌がある。誕生の背景や曲調に込められたものなどを探っていく。各療養所...
沢知恵さんが全国の国立ハンセン病療養所を巡り、それぞれの園歌を探究したもの。沢さんはこのテーマで論文を書いていて、この冊子はそのエッセンスをまとめたような位置づけ。 全国の国立ハンセン病療養所13か所のすべてに園歌がある。誕生の背景や曲調に込められたものなどを探っていく。各療養所で園歌が複数あったり、作者が表向き不詳ということになっていたり、正式な記録と療養所住まいの人の語る事実とで相違があったり、何だかドキドキの面白いミステリーを読むような感じ。貞明皇后の御歌「つれづれの」に山田耕作と本居長世という大作曲家2人が別々に曲をつけているというのもその背景を探ったりもしている。 また、沢さんは音楽に関する理論的な知識をもって曲調を分析したり、そこに込められた意図なんかも見えてしまったりするんだなあ。歌ってピュアな好悪の気持ちで受け取るものだと思っていたけど、歌を通じて人の心を操るのなんかいとも簡単なように思えてしまう。 園歌の歌詞には「民族浄化」とか「一大家族」「楽土」など、ハンセン病が排斥されていた過去を思わせる語も多く出てくる。沢さんは歌ってくれたり歌について語ってくれた療養所で暮らす人たちに「うたっていてつらくなかったか」と聞くけど、多くが懐かしむ。なかには、疑念を抱きながらもそれでも好意をもっている人が多い。それってそういうものだと思う。たとえつらい思い出も月日がたてばよい思い出になってしまうということもあるだろうし、朝鮮半島の人々がこちらがかまえているのに対し、あっけらかんと軍歌を歌ってくれちゃったりしてドッキリしちゃうのと同じような構造があると思う。 一方で、沢さんが書くところの「二重意識」として見ることもできる。虐げられている身だからこそ、関わってくれる大きなものの陰に入ったり同化することで自分を保ったりするのってあるもの。それに、現在の認識からすればハンセン病者の排斥を温存させたという評価になる人も、当の療養所で暮らす人にとってはいい人であったり、その人自身もハンセン病患者に寄り添おうと当時の常識に沿って行動したにすぎなかったりする。 ハンセン病政策やそれを後立たせていた人々の何気ない意識っていまにしてみれば何だったんだろうってことを、園歌というちょっと変わった視点をとおしてあらためて思わせる一冊だった。
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沢さんの愛に満ちた研究の結果、園歌の意味を私たちにわかりやすく伝えてくれる良書。排除されて民の力に生きる意味を教えてもらっているように思う。
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