逃亡者 の商品レビュー
タイトルに惹かれて読み始めましたが、途中でやめられないというプライドと時間との戦いでした。かなり長かったです。折り返した後からは入り込めて思ったよりすらすらと進みました。 スケールが大きい物語で、読了後のなんとも言えない浮遊感がありました。 僕はとても面白かったと思います。若いか...
タイトルに惹かれて読み始めましたが、途中でやめられないというプライドと時間との戦いでした。かなり長かったです。折り返した後からは入り込めて思ったよりすらすらと進みました。 スケールが大きい物語で、読了後のなんとも言えない浮遊感がありました。 僕はとても面白かったと思います。若いからかもしれません。
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本作における理不尽の具現化とされたBからの逃亡劇はとてもハラハラし楽しめた。また、作中には「なぜ差別的発言をしてはいけないのか」について書かれている描写があるが、これの答えは自分が今まで上手く言語化出来なかったものに1つの答えをくれた気もした。宗教、差別、戦争といった陰鬱な雰囲気...
本作における理不尽の具現化とされたBからの逃亡劇はとてもハラハラし楽しめた。また、作中には「なぜ差別的発言をしてはいけないのか」について書かれている描写があるが、これの答えは自分が今まで上手く言語化出来なかったものに1つの答えをくれた気もした。宗教、差別、戦争といった陰鬱な雰囲気を纏う作品であり、好みが別れるかもしれないとは思う。
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※このレビューにはネタバレを含みます
純文学と大衆文学という区別はわざわざつけたくないのだが、ちょうどその中間をいく文体とストーリーで、何度もページを戻しながらぐっと読み込めるところと、サラサラと手が止まらなくなるところと、その両者の共存具合が癖になって面白かった。 最後の鈴木の環境変化やトランペットを吹くシーンも好きだけど、アインと付き合っている山峰の自己の向き合い方の描写とかに好きな文章がありすぎた。もう一回読む。
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物語の中に、歴史上の惨劇がいくつも説明するように並べてあって、読んでてどう物語に馴染んでいくのか、わからないまま読み進めた。 すべてがまとまっているとは思えないけど、なんとなく作者がいいたいことは伝わったような気がする。 主要な登場人物が感じるもの考えているものは、すべて作者自身...
物語の中に、歴史上の惨劇がいくつも説明するように並べてあって、読んでてどう物語に馴染んでいくのか、わからないまま読み進めた。 すべてがまとまっているとは思えないけど、なんとなく作者がいいたいことは伝わったような気がする。 主要な登場人物が感じるもの考えているものは、すべて作者自身のことだとわかるくらい、みんな似ている。 言いたいことがつまってる小説なんだろうと思った。
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中村文則さん15冊目。 鬱々とずっと霧がかかってる感じ、ほんと好きすぎる。 自分が読んだ中村文則さんの中でもTOP3に入る位好きなお話だった。
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一昨年の11月に四国へ旅行に行った際に高松の駅で買って以降、ずっと積読状態になっていました。 ・第二次世界大戦で伝説を残す狂気のトランペット? ・トランペットを抱え、謎の組織とBに追われる主人公の山峰? ・山峰の恋人アインは不慮の死を遂げる・・・ ・アインの先祖と長崎の関係 ・...
一昨年の11月に四国へ旅行に行った際に高松の駅で買って以降、ずっと積読状態になっていました。 ・第二次世界大戦で伝説を残す狂気のトランペット? ・トランペットを抱え、謎の組織とBに追われる主人公の山峰? ・山峰の恋人アインは不慮の死を遂げる・・・ ・アインの先祖と長崎の関係 ・長崎と山峰の関係 ・トランペットと宗教 ・宗教と政治の繋がり ・隠れキリシタンと長崎の原爆 ・大戦末期のフィリピンとトランペット 色んな物語が混ざり合って絡まる物語・・・ 物語が繋がっていくことに心地良さを感じる、不気味なストーリー 同作家の掏摸が好きな人にお勧めです!
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ほんための紹介を見て。 様々な要素が折り重なる壮大なストーリーだった。 Bの存在や、鈴木のストーリーの逸話と実際の話の乖離が良かった。
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キリシタン迫害、新興宗教、第二次世界大戦、テーマが乱立していて難読なイメージ。何度も読んで理解を深めたいが今回は『トランペット』を焦点に書く。あまりにも完璧すぎて持ったものを狂わせるトランペット。トランペッター鈴木の手記の中に「これを作った男は、クルッタ」、「トリハダガタッタ」の...
キリシタン迫害、新興宗教、第二次世界大戦、テーマが乱立していて難読なイメージ。何度も読んで理解を深めたいが今回は『トランペット』を焦点に書く。あまりにも完璧すぎて持ったものを狂わせるトランペット。トランペッター鈴木の手記の中に「これを作った男は、クルッタ」、「トリハダガタッタ」のように片仮名表記の文章が出てくる。大戦時の手記のため、旧字だったり読めなくなっている部分を「手記」というリアリティのための表記とも捉えられるがトランペットに関わってしまった人間が人間としてのあたたかみを損失して異常さを増していくことの表現とも感じた。 他作『銃』では、たまたま拳銃を手にした主人公がその魅力に取り憑かれ彼女も人間としての生活も捨てて狂っていく話が描かれているが、今回も「トランペット」のみを抽出するとそこに繋がる感じがした。 鈴木にトランペットを渡した男は、上等なスーツを着ていて広い部屋に椅子が一つだけ(家族はいない)、天井まで侵食した棚に膨大なレコオドがしまわれた部屋に住んでいる。『掏摸』『王国』の木崎、『教団X』の宗教家(敵の方、名前忘れた…)などもそうだが、中村作品に出てくる悪役は上品だがそれを超えてくる不気味さ、非人間性を持ち合わせていることが多いと感じる。その傾向はモノにもあって、それが今回のトランペットで『銃』における拳銃だと感じられる。 鈴木が上官の前で「ウミユカバ」を吹く場面。天皇のために死ねる喜びを綴る歌詞に寄った演技をしていたが、途中から「恐ろしいまでに入り込んだ」。そして最後は正気に戻っていたが同胞たちは涙を流していた。この本の最初の方に楽器は兵器であると書かれているが、鈴木が手にしたトランペットは吹くものも聴くものも戦争の道具として目覚めさせるという、まさに兵器とよぶに相応しい楽器であったといえる。
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積読がだいぶ落ちついてきたので、中村文則未読作品を新しめのものから攻める。本作はなかなかの大作でした。恋人の物語を書かなければという前半までの話でかなりぐっときたんだけど(このあたりは彼女がベトナム人であるというのが、個人的な職業柄思い入れみたいのもあって)そこからが過去の歴史と...
積読がだいぶ落ちついてきたので、中村文則未読作品を新しめのものから攻める。本作はなかなかの大作でした。恋人の物語を書かなければという前半までの話でかなりぐっときたんだけど(このあたりは彼女がベトナム人であるというのが、個人的な職業柄思い入れみたいのもあって)そこからが過去の歴史と、悪とされてきたトランペットの真実を探る壮大な旅でした。時をおいて再読したいかな。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
第二次大戦のフィリピンで、日本兵を駆り立て、天皇のために命を捨てる兵を鼓舞したトランペットが見つかった。右傾化した現代日本でそのトランペットが政治に利用されるのを防ぐため、僕ことジャーナリスト山峰健次は、左派の五十嵐が盗んだトランペットを持って出国するが、謎の危険人物、Bに跡をつけられ… 現政権に批判的な左派の山峰はネトウヨに叩かれ、ヴェトナム人留学生である恋人のアインは、デモでぶつかった右翼の男に押されて転倒し命を落とす。差別主義や歪んだ愛国主義、戦争を英雄視しややもすればそこへの回帰を夢見る、"美しい国"の標榜者政権への批判が結構はっきり語られていて、この本もっと読まれてほしい。今の右傾化日本、極右な日本の現状を改めて目にするようで暗澹たる気持ちになった。 公正世界仮説。山峰の著作はネトウヨたちに「知りたくなかった」として叩かれる。愚かな人々は、自分の見たいものだけ見、聞きたいものだけ聞くことを望む。自分と異なる意見、自分と異なる人々を排斥し、非難する。それは悪ははっきりした悪として自分から切り離し、自分は免罪符を持って悪とは無縁だと思おうとするずるい心理だ。山峰や鈴木はよく「罪悪感」という言葉を使う。自分も目の前で起こっている悪と無関係ではいられない。何かしら後ろ暗いものを持っている。悪とはそんなにわかりやすいものじゃなくて、私たちの生活それ自体、あるいは私たちが生きようとすればそれと表裏一体に結びついてしまっている悪もあるから。だから、悪を自分とは異なる他者、外国人とか違う主義主張の人々とか、そういう人たちにだけ負わせて無責任に生きるのは間違っている。自分もその十字架を負わなければいけないのに、今の人々は、そうした都合の悪い事実から目を背け、ネットで無責任で無根拠な発言を垂れ流しながら、のうのうと他人の不幸を眺めている。山峰や鈴木のいう罪悪感はだからこの世界を自分とつながるものとして真摯に受け止めている証左といえるし、だからこの世界に期待してないだとか、滅べばいいと思ってるとか、全くもって正常。最後に山峰の小説の帯文を書くN、おそらくは中村文則その人が、希望、という言葉を書きかけて斜線で消すように、歴史を持つ人々、一人ひとりの人生と出会いの先に希望は見出し難い。この世界はどうなっていくのか、山峰のような人間はどうなってしまったのか、不透明なまま。 Bの登場シーンは川があるか、体が濡れていると後書きにあった。桃太郎も川から来る。村人たちはよそ者の桃太郎が勝手に鬼を退治するのを見ているだけで責任を負わない。公正世界仮説で、自分とは違うからと切り離されるところの悪。自分たちを免罪するための異分子。それが桃太郎でありBなのだとしたら、純粋に悪であるBはやはり存在しないと言えるかもしれない。悪を切り離しておきたいと思う人々の意識こそがBか。 Bが提案する、拷問からの死か、幸福な時に殺すか、自分が最もなりたくなかった者になるか、という三択は、考えてみれば浦上をはじめとする禁教下のクリスチャンの運命と同じだ。そう考えるとBは政権や権力であり、政権の位置に純粋な悪そのもののBを置くのはうまい批判だなと思う。こんな社会への絶望、そこで生きていくことへの絶望を嫌というほど描きながら、山峰の叔父のように、岩永マキのように、生きろというメッセージも強く感じる作品。
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