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この父ありて 娘たちの歳月 の商品レビュー

4.5

25件のお客様レビュー

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2023/07/02

日経新聞に連載された9人の女性作家たちの父との関係についてまとめた本。綿密な取材で、彼女らが父をどうとらえたか、深掘りしながら鋭く推察している。 厳しい時代に生きた父への尊敬、愛情の念もあれば、憤り、悔恨、葛藤といった負の感情もある。それらを通して感じたのは、「書く女」たちのしな...

日経新聞に連載された9人の女性作家たちの父との関係についてまとめた本。綿密な取材で、彼女らが父をどうとらえたか、深掘りしながら鋭く推察している。 厳しい時代に生きた父への尊敬、愛情の念もあれば、憤り、悔恨、葛藤といった負の感情もある。それらを通して感じたのは、「書く女」たちのしなやかさと強さだ。それに対比して、男たちの身勝手さ、浅はかさも伝わってきた。 修道女として生きた渡辺和子は、二・二六事件で、父親が射殺される瞬間を目前で見たが、泣かなかった。軍人の子として凛とした姿勢を貫いた。 石垣りんは、半身不随となり4人目の妻に甘えて暮らす父親への嫌悪の中、窮乏した一家6人を養うため、定年まで働き続けた。          辺見じゅんの父は角川書店創業者。「収容所から来た遺書」などの名作は、戦争に翻弄された父の世代の悲哀が根底にある。 夫の裏切りで精神を病んだ島尾ミホは奄美の父を捨て、孤独の中で死なせてしまったという悔恨を生涯抱えていた。 軍国少女だった田辺聖子は芸術家肌で温厚だが弱々しかった父親を受け入れられず、優しい言葉をかけないまま、死なせてしまったことを悔いる。 詩人・萩原朔太郎の娘、葉子は両親の不仲や母の出奔、障害者の妹の世話、祖母に疎まれた生活など苦難の人生を「私はまさしく父親の犠牲者としてこの世に生まれた」と表現した。 水俣病闘争に関わった石牟礼道子は、貧しく苦しい生活の中でも自らの哲学を持っていた父の背中を見て育った。     名作が生み出されるバックボーンとして、父親との間の壮絶な人間物語があったのだと、強く認識した。

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2023/05/28

読み応えあった。少しずつ読んで楽しめた。 「書く女」の文章を通り抜けているからか本当に生きていた人の生々しさが昇華されていて、切ないものを見ているみたいだった。 ずーっと前から何の気なしに目にしていた角川文庫の発刊のことばの背景を初めて知って、胸がじんとした。

Posted byブクログ

2023/05/26

 なんと重いテーマの父娘の物語か。 父も、娘も、更に、母も、夫も、それぞれの葛藤を抱えている。 それが故なのか、九人の娘たちは、" 書く人 " となる。  書かざるおえない何かを深読みする力は、私にはないが、重く影をさすあの時代・戦争について考えさせられた。 ...

 なんと重いテーマの父娘の物語か。 父も、娘も、更に、母も、夫も、それぞれの葛藤を抱えている。 それが故なのか、九人の娘たちは、" 書く人 " となる。  書かざるおえない何かを深読みする力は、私にはないが、重く影をさすあの時代・戦争について考えさせられた。  そして、改めて、茨木のり子が好き、と想う。  彼女の夫は、『茨木の父と同様、開明的な人物で、家庭に妻を家庭に閉じ込めることをしなかった。』と、ある。 夫も父も、よき理解者であったよう。  気が滅入るような壮絶な人生を歩む娘たちが多いなか、読んでいて、心が和む。  そして、我が身を想う。  頑固で短気だった我が父も、齢を重ね、耳も遠く、食も細くなり、小さくなった。 そして、言葉の足りない父の柔らかな眼差しに気づいたのは、わたしも子を持つ身となってやっとだった。  父も娘(わたし)も、不器用だったのだろう。笑いたくなるが、父に似て、わたしも短気で頑固なのだと、今更ながら想う。 だか、それも悪くない。  

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2023/05/15

日経新聞土曜版に連載されていたときから注目して読んできましたが、改めて一冊となり、じっくりと時間をかけて読みました。梯久美子の文章には、なんとも言えない説得力があり、時間をかけての咀嚼にふさわしい。 「この父ありて」この娘あり、なのでしょうが、渡辺和子、齋藤史、島尾ミホ、石垣りん...

日経新聞土曜版に連載されていたときから注目して読んできましたが、改めて一冊となり、じっくりと時間をかけて読みました。梯久美子の文章には、なんとも言えない説得力があり、時間をかけての咀嚼にふさわしい。 「この父ありて」この娘あり、なのでしょうが、渡辺和子、齋藤史、島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、辺見じゅん、萩原葉子、石牟礼道子と、「書いた」娘たちの生涯に光を当てる著者の視線は実にあたたかい。 いずれも素晴らしいですが、最初の渡辺和子、そして、最後の石牟礼道子がやはり圧巻でした。 渡辺和子といえば、吉行あぐりさん(吉行淳之介、吉行和子の母)のエッセイ「梅桃が実るとき」に、二・二六事件のことが出てきていて、当時も世間が狭かったんだなと思ったのを思い出しました。

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2023/04/24

衝撃、慟哭、天を仰ぐ内容がずらりと並ぶ内容ばかりだった。 あえて、そういった方々ばかりちょすしたのかと思うほどに。 それが陽のサイド,陰のサイド的には、こういった日本人が日本を作り上げてきたともいうべき感慨。 良くも悪くも。 最もすべての日本人は言うまでもなく、女性作家すべてが...

衝撃、慟哭、天を仰ぐ内容がずらりと並ぶ内容ばかりだった。 あえて、そういった方々ばかりちょすしたのかと思うほどに。 それが陽のサイド,陰のサイド的には、こういった日本人が日本を作り上げてきたともいうべき感慨。 良くも悪くも。 最もすべての日本人は言うまでもなく、女性作家すべてがこのように父親の血、空気もろもろを受け継ぎ、懊悩し、自らの生き方を決めていったとも思えないが。 昭和、平成、令和と日本は変容していっている・・良くも悪くも。 しかし渡辺和子氏の父☆ ~戦犯の一人一人の物語の重さを殆ど含有しているような番館迫る、胸のつぶれるような内容だった。 しかし、戦犯とならないで成功し、ぬるっと絹板男たちがいることも事実。 石垣りん★ オスとしての父の姿に思う娘・・【家に一つのキンカクシ、その下に匂う】の分がザクッと胸に刺さった。 血の絆は頸木にほかならぬという文も痛く 目に焼き付いた。 事物を言葉に変えるという魔法  血縁を生きるとは何か  家とは  家族とは  障害と居続けた彼女 時代は流れ手もいまだに、それの持つ意味の重さ、苦悩、時には人を苦しめ地獄に突き落とすことすらある。 一方で人を救い、安らかな旅立ちへいざなうこともある。 萩原葉子★ 戦前、最高の美男子作家(いまでも そのように称されている)父親、そして実母がもたらした子供への傷 養母との宿痾 そこをどこまでも掘り下げ、運命として徹底的に身をひさぐ職業としてまでも貫いたのは凄絶。 かといって別の選択肢もあったのにとまで思わされた…実母の最期を引き取り、看取っている。 石垣りん★ 祖父も実父もある意味、当時には多かったであろうが、とりわけ特筆されるような人間だと思えた。 リンガ引き受けた血の書き綴りが表面的に世間で受け止められていった気すら覚える。しかし、晩年の彼女の筆致には、ほかの8人の女性作家同様、悟りといえるような澄み切ったものを感じさせられた。 梯さんの所論は面白いとは言わず、理と血を同居させたものを感じる、 たまに読むのは面白いが、狭い視野に陥って、「その人」の事象を特別視しそうな感覚にならないとも言えない。 NHK放送の【ファミリーヒストリー】的と言えなくもない。 表に出てこない逸話が世の中の人生にあふれている。

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2023/03/22

書く女9人とその父の壮絶な関係を綴った良書。この父あって、この娘あり。その後の人生に想いを馳せると、いろいろ考えさせられた。

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2023/03/20
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

読み応え充分。 中でも二・二六事件で自分の眼の前で銃殺された渡辺錠太郎の娘、渡辺和子(置かれた場所で咲きなさいの著者) 島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、石牟礼道子。 島尾ミホの父親が実父では(養父母に育てられたらしい)ないもののほんとの娘のように慈しみ愛情を持ってミホを育てたとのこと。この養父を捨てて(不便な疎開先に追いやった)まで敏夫を一緒になった故、浮気された時はそんな心中もあったのだろうか。 お聖さんも大好きな父親だっだのに、戦後まもなく亡くなった父に「やさしい言葉の一つもかけることなく、父を死なせてしまった」と。 石牟礼道子のご両親も、また立派な人格者。 ガリガリに痩せてしらみだらけの身元不明の少女を嫌な顔ひとつせず一ヶ月以上も世話をしていたなんて、家族だけでも食べていくのが大変な時に。 無償の愛の精神が道子にも流れていたんだろう。 母親と娘の関係もそうだけど、父親と娘の関係も異性だけに 一筋縄だはいかないものがそれぞれにあってしみじみと読了。

Posted byブクログ

2023/03/13

9人の女性作家とその父親との関係思いへの考察。 書き手となった娘たちが、立派で尊敬し愛する父である場合はもちろん、そうでない場合も、この父ゆえに作家となったことが伝わってくる。 石牟礼道子の父親の亀太郎氏が興味深かった。

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2023/02/15

いい本を読んだ。 梯久美子さんが選んだ9人がまず、いい。 著者が、この人たち、と選んだ9人は、父との距離が程よく遠く、家父長的でなく、それでいて愛情がある。 距離が程よく、関係性がウエットにならずにすんだのは、おそらく彼女たちが「書く人」になったからだろう。 作られたと感じる泣...

いい本を読んだ。 梯久美子さんが選んだ9人がまず、いい。 著者が、この人たち、と選んだ9人は、父との距離が程よく遠く、家父長的でなく、それでいて愛情がある。 距離が程よく、関係性がウエットにならずにすんだのは、おそらく彼女たちが「書く人」になったからだろう。 作られたと感じる泣かせる話は何一つない。 どの親子のエピソードも覚えておきたくなるが、いかんせん、新聞連載なら覚えられたかもしれないが、こんなに面白い書籍になっては、覚える暇もなく読み終わってしまう。 目の前で父を惨殺された渡辺和子 投獄された父を「おかしな男です」と天皇に話した斎藤史 娘は幸せな結婚をしたと信じて死んだ島尾ミホの父 4人目の妻に甘えて暮らす父への嫌悪を抱えた石垣りん 父という存在があったからこそ、夫や異性の友人に恵まれた茨木のり子 口ばっかりで弱かった田辺聖子の父 家に帰ってこない父を「好きだったから」という母が愛した男と捉える辺見じゅん 母に浮気をするよう仕掛けた父、自分を顧みなかった父を描き続けて家族を最後まで面倒を見た萩原葉子 辛苦の中で自前の哲学を生み出した市井の人であった石牟礼道子の父 どの父も、父より大きい娘の慈愛の目によってその生き方が肯定される。 この娘たちが、本当にすばらしい。 梯さんの著作を読んでみたくなった。この人が書くなら間違いなさそうだ。

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2023/02/15

9人の女性作家と家族、特に父親との関係に焦点を当てて書いてあるが、読みごたえがある。 成長と家族との関係が、筆を動かす。 2.26事件で父を惨殺された修道女の渡辺和子、ベストセラーの置かれた場所で咲きなさいは読んで、心動かされた。 同じ事件で投獄され、その死後、歌会始に招かれ、天...

9人の女性作家と家族、特に父親との関係に焦点を当てて書いてあるが、読みごたえがある。 成長と家族との関係が、筆を動かす。 2.26事件で父を惨殺された修道女の渡辺和子、ベストセラーの置かれた場所で咲きなさいは読んで、心動かされた。 同じ事件で投獄され、その死後、歌会始に招かれ、天皇に声をかけられる齊藤史、なんとも凄い。 死の棘の島尾ミホ奄美大島で立派な養父母に育てられたこと。 9人の歴史が痛かった。

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