夜の道標 の商品レビュー
もっと読みたかった。もっと知りたかった。でもここで終わる良さもある。間っ違いなく芦沢作品、過去イチで面白かった。殺人事件の指名手配犯をめぐる群像劇。バスケの才能を持つ少年、お惣菜屋のパートで働く中年女性、警察官。この3組のパートが丁寧に描写されているので、点が線になる様が非常にわ...
もっと読みたかった。もっと知りたかった。でもここで終わる良さもある。間っ違いなく芦沢作品、過去イチで面白かった。殺人事件の指名手配犯をめぐる群像劇。バスケの才能を持つ少年、お惣菜屋のパートで働く中年女性、警察官。この3組のパートが丁寧に描写されているので、点が線になる様が非常にわかりやすく見事だった。作中は1990年代後半で、何故こんな中途半端な時代設定なのだろうと首を傾げたがそれにもちゃんと意味があったとは。その理由も意表を突かれて脱帽。エピローグも素晴らしく、むせび泣きそうで顔がぐしゃりと歪んだ。
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芦沢さん、作家生活十周年記念作品とのこと。芦沢さんは、一作ごと、着実に完成度が上がってきている作家さんだと思います。今まで、後少し、もう少し、うーんあと一息と読んできて、前回読んだ「カインは言わなかった」で次作あたり覚醒するかもと思っていました。 そして、夜の道標です。道標を見失...
芦沢さん、作家生活十周年記念作品とのこと。芦沢さんは、一作ごと、着実に完成度が上がってきている作家さんだと思います。今まで、後少し、もう少し、うーんあと一息と読んできて、前回読んだ「カインは言わなかった」で次作あたり覚醒するかもと思っていました。 そして、夜の道標です。道標を見失った男は闇から逃れる事ができるのか。 メインのストーリーは、地域で人望がある塾講師の殺人事件。犯人は、早々に捜査線上に浮上するが、2年経っても、その足取りは掴めない。 何人かの視線、立場から、ストーリーを書き寄せてくる、芦沢さんの作風です。最初は、関わりの無いように思われる風景が徐々に重なり合って、感情が混ざり合います。ミステリーを取り巻く社会問題、家庭環境に重きを置いた、余白と余韻の残る素敵な小説でした。
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元奥さん、実和さん。 こんなに人に出会えたことが羨ましい。 間違えた箇所まで戻ってやり直すことはできない。 お母さんの気持ちも分からないでもない。
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切なかった。たくさんのやりきれなさを抱えた物語。 父親に当たり屋をさせられている波留。疎まれがられながらも、波留をなんとか救いたいと思う桜介。知能に障がいを持ち、恩師を殺してしまった阿久津。阿久津を匿い自分の家に閉じ込める豊子。窓際に追いやられながらも阿久津の事件を追い続け...
切なかった。たくさんのやりきれなさを抱えた物語。 父親に当たり屋をさせられている波留。疎まれがられながらも、波留をなんとか救いたいと思う桜介。知能に障がいを持ち、恩師を殺してしまった阿久津。阿久津を匿い自分の家に閉じ込める豊子。窓際に追いやられながらも阿久津の事件を追い続ける正太郎。 このバラバラのピースがどうやって交わっていくのかと疑問に思うも、途中からあれよあれよという間にピタッとハマっていく様は見事。 ハマった後はこの先どうなるのかと不安と期待が入り混じった感情のまま読み進める。それぞれに感情移入してしまうので、感情の持っていき場所を探しているうちに迷子になってしまいそうになる。 読み進めていうくちに、阿久津の人間性に触れ、どうしても殺したとは思えなくなるし、思いたくなくなってくる。 本当に阿久津が殺したのか、なぜ阿久津は殺したのか・・・。 そして誰もが納得できるがあまりにも切ないラスト。これは是非映画化してほしい作品だ。
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それぞれがそれぞれ思い遣っているけれどなかなか思いが伝わらない。まっすぐな思いが最後に伝わったとき少し涙が出た。悩んでるとき道標になる人がいると幸せかも。
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あぁ、とても良い小説だった。 指名手配の殺人犯を匿う女性、殺人犯を追う刑事、殺人犯と知り合い食べ物をもらうようになった虐待されている少年、その少年を慕う同級生の友だち、この四人が代わる代わる語り手になり物語は進んでいく。 語り手それぞれの心の中が分かると同時に、語り手から見た殺人...
あぁ、とても良い小説だった。 指名手配の殺人犯を匿う女性、殺人犯を追う刑事、殺人犯と知り合い食べ物をもらうようになった虐待されている少年、その少年を慕う同級生の友だち、この四人が代わる代わる語り手になり物語は進んでいく。 語り手それぞれの心の中が分かると同時に、語り手から見た殺人犯の姿も見えてくる。 それぞれの人物が抱えている人生、そしてその人生に寄り添いたいと思っているのにうまく伝えられない歯痒さ。 少年を虐待している父親は例外だけど、登場人物全ての気持ちが突き刺さってくるので、読んでいてとても切なくて痛い。 虐待されている子どもの他に障害者のことも出てきて、社会的弱者の問題に大きく触れています。時代背景が少し前のお話なので、障害者に対する社会全体の未成熟な対応に眉を顰めてしまいます。でも、これはあくまでも社会に対するものであって、障害者の家族に対しては第三者がとやかく言う権利はないと思います。世の中には当事者しか分からない問題はたくさんあるのですから。 全体を通して親はいつまでも子どもが自分の一部であると思ってしまうところがあるんだな、と感じました。でも、子どもは一人の独立した人間。子どものためと思っての行動であっても、それは子どもの意に沿わないこともある。だけど、子どもはどうしても親を頼らなければ生きていけない、だから問題が複雑になるのですね。 最後は子どもの真っすぐで純粋な気持ちにやられてしまい、文字がボヤけて読めなくなってしまいました。 文句なしの★5!
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1996年11月、横浜市内で塾を営む戸川が塾内で倒れていた。花瓶が割れ撲殺と思われた。前日の夕刻、元塾生だった当時35歳の阿久津弦が塾の前に立っているのが目撃され、最寄りの警察署に向かったところで消えて2年。 戸川の塾は学校になじめない生徒への個別指導をしていた。阿久津と戸川に...
1996年11月、横浜市内で塾を営む戸川が塾内で倒れていた。花瓶が割れ撲殺と思われた。前日の夕刻、元塾生だった当時35歳の阿久津弦が塾の前に立っているのが目撃され、最寄りの警察署に向かったところで消えて2年。 戸川の塾は学校になじめない生徒への個別指導をしていた。阿久津と戸川に何があったのか? 読み進めると、ずどんと思い鉱物が体を覆うような感情になった。阿久津は今ならさしずめ、発達障害とか自閉症とか言われるのだろう。阿久津の中学時代、職場の同僚、元妻、母などの話から、阿久津は相手の感情を読むということはせず、思ったことをそのまま口にする人、というエピソードが語られる。 記される会話を見ると、これは回りの人はとまどう場面がけっこうあるだろう、と思う。が、阿久津の言葉はこうして活字でみると、しごくまっとうに見える。そして元妻とのピクニックの回想シーンは幸せだ。 さらに、近所の中学生、愛情あふれる家庭の桜介と、父にある事をやらされている波留が阿久津と交差する。そして終盤、阿久津を追う刑事と阿久津の母親への聴収から、悲しい出来事がわかってくる。 事件が1996年、阿久津は当時35歳なので1961年生まれ、母はおそらく1930年前後生まれ、塾長は1942年生まれ、こういう時代に生きた人の事件。 「リバー」の後に読んだが、「リバー」はからっとどこか突き抜け青空が見える空気があるが、こちらは重い。同じ容疑者でもリバーの期間工は母親への感情から女性殺害に至ったという類型化図式が描けるが、こちらの阿久津は、相手の空気が読めない人物。でも思いは純粋。問いかけるものが大きかった。 2022.8.10初版 図書館
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構成、心理描写、何もかもとにかく素晴らしかった。 美しく、切ない物語。 読み終えた時、感無量で しばらく余韻に浸ってしまいました。 すごくいい映画を見た気分。
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文章自体はするする読めるのに 内容は思い返せば返すほど、 ああ、そういうことなのか、と気付かされて 何度も読み返したくなる本。 優生手術というものが本当にあったこと、 それが昔は当たり前とされていたことが 心の底から恐ろしいことだと思った。 現代だったら世界中から非難されるレベルの事実が 当然にあって、それを道標にしている人がいて。 何が悪いと言い切れないことが苦しくて。 阿久津の「欲しくはない、欲しかったんだ」に 胸がぎゅっとなった。 事件からの年月をどんな想いで過ごしていたんだろう、 波瑠にご飯をあげるようになって何を想っていたんだろうと切なくてやり切れない気持ちになった。 今と未来でもきっと同じことが起きるんだろうと思うとこれからがすごく恐い。
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群像劇として阿久津が戸川を殺した動機はなんたるや、その謎の解明に物語が収斂していく展開が上手い。正直者とはいえ浮世離れも甚だしいこの男、こんなんが実在したらどうしましょ。何食わぬ態で愚か者に己れの愚行を思い知らせてくれるのは痛快だ。が、残念ながら法治国家じゃ生きられません。面白く読み進んだけど、え?、肝心の殺人の動機が恥ずかしながら理解できない。母から「優生手術」を打ち明けられ、自分の道標と崇めていた師がそれを肯定していたから?そんなあやふやな…結局俺読み解けてない?豊子のことは最後放ったらかしでいいの?
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