神よ憐れみたまえ の商品レビュー
「神よ憐れみたまえ」は、J. S. バッハ《マタイ受難曲》よりアルトのアリア。なぜこのタイトルなんだろうと、思いながら読み続けていたが、最終版で主人公の黒沢百々子が父との会話を思い出すシーンで、そのタイトルが出てくる。 そして百々子だけではなく、百々子の母の 沼田須恵自身も、波乱...
「神よ憐れみたまえ」は、J. S. バッハ《マタイ受難曲》よりアルトのアリア。なぜこのタイトルなんだろうと、思いながら読み続けていたが、最終版で主人公の黒沢百々子が父との会話を思い出すシーンで、そのタイトルが出てくる。 そして百々子だけではなく、百々子の母の 沼田須恵自身も、波乱の人生を歩んできており、まさに受難。 黒沢家は、函館起業の今や北海道では知らない人がいないと言われるほどの有名な製菓会社。物語はその黒沢製菓東京支店長夫婦(黒沢百々子の両親)殺害の場面から始まる。 読み進める中、ほどなく犯人は分かってくることから、ミステリー仕立てではないことがわかる。 事件があった時の百々子は12歳。両親の死によって、黒沢家にお手伝いに来ていた石川たづの家に住むことになる。その石川家の子どもたちで、歳も似た紘一と美佐、叔父の沼田左千夫、黒沢本家の家族、百々子の先生、そして大学時代にできる恋人等。1951年生まれの百々子と言う時代背景ではあるが、ちょっとまえの昼メロドラマと思わせるような、彼女を取り巻く人間関係が、やや世俗的に描写されていく。 ただ性的変質者とも思わせる犯人の最期や、安定した家庭を望んだ百々子の思いが続かなかったことが、重い読後感として残った。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
私からしたらまさかと言う人が犯人でした。 最後にどんでん返し!的な結末と違い、前半から少しずつ判明していくストーリーだったのでなんだか辛い展開で胸が苦しかったです。 昭和三十年代から始まる、美少女百々子の波瀾万丈な一生の物語。 たづさんがいなかったらどんな人生だったのか。 正直言うと紘一さんと結ばれて欲しかったです。
Posted by
推理小説のはじまりの殺人の出来事から、 ある裕福な美少女の転落と再生を緻密な 心理描写で描いた女性の一生。 彼女の信じていた人々は次々と彼女の元から 天上へと去って行く。 唯一無二の正しさを持った家政婦だったちづ一家 彼女の周りにはいつも、陰鬱な両親殺害事件 が纏わりつく。 信じ...
推理小説のはじまりの殺人の出来事から、 ある裕福な美少女の転落と再生を緻密な 心理描写で描いた女性の一生。 彼女の信じていた人々は次々と彼女の元から 天上へと去って行く。 唯一無二の正しさを持った家政婦だったちづ一家 彼女の周りにはいつも、陰鬱な両親殺害事件 が纏わりつく。 信じていた叔父のとてつもない彼女への 執着をしり絶望、そして恋人の豹変そして離婚。 それからの晩年の彼女はようやく落ち着いた 暮らしを手にするが、病の為すべてはその内忘却の彼方へと忘れ去って行くのだろう。
Posted by
美少女12歳黒沢百々子の両親が殺害された。ピアニストを目指す夢は絶たれるのか。優しい家政婦のたづさんや陰湿な祖母等様々な人に囲まれ、百々子はその後をどう生きるのか。 女一代記もしくは大河ドラマ的小説。犯人は誰かは割とすぐに分かるので、ミステリー的楽しみよりもドラマ的楽しみが多い...
美少女12歳黒沢百々子の両親が殺害された。ピアニストを目指す夢は絶たれるのか。優しい家政婦のたづさんや陰湿な祖母等様々な人に囲まれ、百々子はその後をどう生きるのか。 女一代記もしくは大河ドラマ的小説。犯人は誰かは割とすぐに分かるので、ミステリー的楽しみよりもドラマ的楽しみが多いように思う。殺人の動機は、すごくリアルに分かると思える部分と、いやいやそりゃ行き過ぎでしょと思う部分もある。この動機は作品全体を黒い影で覆うので、受け入れられないと凡作になってしまうと想像する。私はまあまあ受け入れられた。
Posted by
久しぶりに小池真理子の世界に入り込んでしまった。 12歳の危うくて、多感な年ごろの百々子。 彼女が、合宿中に両親が惨殺された。 そこから彼女の人生も少なからず変化する。 ただ家政婦のたづが、たづの家族が、いつも親身になり百々子の心に安寧をもたらしていた。 百々子は、令嬢に多く...
久しぶりに小池真理子の世界に入り込んでしまった。 12歳の危うくて、多感な年ごろの百々子。 彼女が、合宿中に両親が惨殺された。 そこから彼女の人生も少なからず変化する。 ただ家政婦のたづが、たづの家族が、いつも親身になり百々子の心に安寧をもたらしていた。 百々子は、令嬢に多く見られる自己本位的な強さ、というものではない、前へ前へと生き抜いていくための、底力、生命力そのものがあった。 両親を殺害した犯人も、途中からそうではないか…と思った。 ミステリー的な要素をあまり感じず、ただ百々子の成長とともに変化していく感情やたづの家族との関わり方に重きを置いているように思えた。 いくつもの別れと再生があり、60歳を過ぎた百々子の心情がラストでわかる。
Posted by
ああ……‼︎ たまらなく切なく、力強い物語でした。小池さんが10年の歳月をかけて紡がれた、書き下ろし長編。序章と終章のみで、570ページ。 昨日から1人の時間は止まらず読み続け、ラスト20ページくらいは溢れる涙を止められなかった。小池さんは大好きでたくさん読んでいるけど、これは間...
ああ……‼︎ たまらなく切なく、力強い物語でした。小池さんが10年の歳月をかけて紡がれた、書き下ろし長編。序章と終章のみで、570ページ。 昨日から1人の時間は止まらず読み続け、ラスト20ページくらいは溢れる涙を止められなかった。小池さんは大好きでたくさん読んでいるけど、これは間違いなく代表作となると思います‼︎ 恵まれた環境で育った百々子に降りかかる悲劇。序盤はミステリーの様相で始まるが、ミステリー的には、読者には徐々に事件のことは明かされていく。それよりも、何によって人生を狂わされ、何に立ち向かい、誰に助けられ、誰と寄り添い、どう生き抜いていったのか?という『女の一生』が描かれている。 家政婦のたづが、素晴らしい。強く逞しく善意の塊であり、とても賢く愛情深い。幼くして苦しい状況になった百々子の人生において、たづがいたことが、どんなにか大きく救いになったことか。それだけに、途中で起きる、たづの娘の悲劇は辛すぎて、読んでいて、思わず声を上げてしまったほど。 私は女なので、どうしても女目線でしか読めない傾向もありますが…それを抜きにしても、犯人の罪深さたるや…なんだかもう、身勝手さに身震いするほどイヤだったなあ…。 百々子が12歳から62歳までの、生と性と死、別れと再生、が描かれ、百々子、よく頑張ったね!と私は抱きしめてあげたくなりました。人生は長いけど短い。生き抜くしかないのですね。 印象に残ったところを少し。 ーーーーー 悲しみや孤独は、意識すればするほどいたずらに膨れあがり、苦しみをつのらせていくような気がした。泣くたびに喪失感が増してきそうで怖かった。心の表面に水の膜を張っていかねばならなかった。沈んだ気持ちに流され、そのつど涙を流していたら、生きていけなくなると感じた。 百々子には少女らしからぬ強靭さがあった。(中略)前へ前へと生き抜いていくための底力、生命力そのものと言えた。ただし、その力が果たして当人を幸福にするのかどうか、という点については、まだその自転で美村にもわかっていなかった。 何をこんなに不安がっているのだろう。石川たづは、もっと明るく陽気な女。どんな問題でも鼻唄を歌いながら乗り越えていける女。そうあるように、神様からの使命を受けてこの世に生まれたも同然の女ではないか。 この人がほしい、と思った。それは性とはかけ離れた精神的な欲望のようでありながら、その実、性と切り離しては考えられないものだった。 愛おしい男の胸の中にいる、というのに、何もかもが場違いで、そもそもすべてが間違っていて、初めから世界は無意味で悲しいことばかりだったような気がした。 こんな波乱が最後に待ち受けていたことに呆れ、泣きたいというよりも、笑いたくなった。波瀾万丈もここまでくれば上等だ、見上げたものだと思った。 「強い人だ」 私は顔をあげた。いいえ、と言った。「ただ、生きてきただけです」 ーーーーー 本屋さんで、今作の分厚さに、何回か購入を迷ったけれど、やっぱり読んで良かった。胸を打たれました。きっとまた読み返すだろうなあ。素晴らしい作品でした‼︎
Posted by
高尚な少女小説を読んでいるような、夢を見るような気持ちで一気に読んだ。 ドラマチックなんだが、 生き抜く、というのはたぶん、そういうことのような気がする。 という最後の一文のとおり、地に足がついた小説で、結論は、やはり私は小池真理子さんが好きである、となる。
Posted by
想像してたのとはちょっと違いました。結構な厚みですが、女性の生活が淡々と語られるので、あっという間に読めました。壮絶な人生ですねえ。そしてこんな結末、、複雑です。けれど百々子の言葉に、私も生き抜く、と決意できました。
Posted by
たしかにすごい読み応えある本でした。 人の嗜好はそれぞれではありますが、特に母親からしたら嫌悪感以外の何物でもない無いですよね。 終章の余韻がまだ残っています。 「生き抜く」ということ…。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
最終章の叙述が素晴らしく、このためにこそ、百々子の数奇な人生が丁寧に語られている、ということがわかる。はじめと終わりにある2つの恐竜に関する記述は、それぞれ異なる者の感想であるはずなのに、話の形を一つにまとめる力がある。どのように考えたら良いのだろうか。 ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しとみし世ぞ 今は恋しき 藤原清輔朝臣 新古今集
Posted by