天才による凡人のための短歌教室 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
すべては歌集に書かれてある。 短歌は0から始めなくていいジャンルだ。教科書に登場するような歌人から無名の歌人を含めた先人たちが、挑戦と失敗を繰り返してきて積み上げてきた土台がある。その土台というのが歌集である。歌集を読めば、あなたはその上に立って、より高いところに手を伸ばすことができる。あなたにとって必要なすべては歌集に書かれてある。歌集はバトンなのだ。入門書や評論、文末に短歌が一首だけついているエッセイ集など短歌にまつわる本はたくさんあるけれど、とにかく短歌だけが入った歌集を読んでほしい。著者に会わなくていい。歌集を読むんだ。僕の第一歌集『つむじ風、ここにあります』には二六四首の短歌が収録されているが、その二六四首を収録するためにちょうど二六四首つくるわけではない。少なくとも二倍から三倍の短歌をつくり、収録候補にあげて、そこから削っていく。つまり歌集はその歌人のその時点の発想、技術の集大成、おいしいところだけを切り取った最高のフルコースであるということだ。意味が取れないもの、よくわからないものも含まれているだろう。けれど、とにかく五七五七七に切りながら最後までざっと読み通して欲しい。それを何冊分か繰り返すうちに、短歌のリズムや短歌を作るうえでの発想の種や構造を頭に刷り込むことができる。わからなかった短歌についても、書かれている文字列は変わらないのに、あなたが変わり、意味が取れるようになる。そして、いい歌に出会い続けることこそが短歌が好きだという気持ちを持続させるための何よりも良い栄養になる。読む前と読んだ後では世界が変わってしまう、そんな歌にたくさん会ってほしい。 歌集を読んでいくうちに好みの歌人が見つかるだろう。そのなかからふたりを目標とし、徹底的に真似をしてインストールしてほしい。目標がひとりだとただの真似、なんかあの人っぽいですね、で終わってしまう。ふたりであることによってそれらがあなたのなかで混ざり合い、「あの人っぽさ」から距離を取ることができる。僕の場合、そのふたりは穂村弘と吉川宏志だった。 テレビを観ろ。新聞を読め。 普通の人であれということだ。歌人というとどうも浮世離れした人という平安時代のイメージがまだあるようだが、普通とされていること、常識とされていること、共通認識されていること、時代の空気がどう動いているか、を知っておくべきだ。常識人であれというよりは、常識人が何を常識と思っているかを知っておくべき、ということである。電車に乗っている大半の人が世の中に対して思っていそうなことを知っておくべきだ。そこを土台にすれば普通を裏切る、非常識な考えを持つ、共通認識にない新しい価値を提案するということが可能になる。みんなの頭のなかにあること=共通項、自分の頭のなかにしかないこと=独創性。このバランスを調節すれば、共感(そうそうそうだよね)の歌、納得(そう言われてみればそうだね)の歌、驚異(感嘆符、ときどき疑問符)の歌をつくることができる。 商品をつくれ。 僕は投稿から短歌を始めた。短歌には新聞、雑誌、ネットと投稿する場がたくさんある。投稿はオーディションのようなもので、芸人さんがネタを作りプロデューサーさんにネタ見せをするようにその短歌の良し悪しを判断してもらう場所だ。僕はそういうところに投稿しまくって掲載されまくった結果、歌集を出版するに至った。デビューの方法はいろいろあると思うが、僕はこの道しか歩いてないから、あなたがもし同じ道を歩きたいのであれば、投稿をする際は選者が書いているエッセイ、歌集、評論などを読んでその人の選ぶ歌の好み、傾向を把握して、対策を立て、短歌をつくれとアドバイスする。顔の見えないたくさんの読者ではなく、選者たったひとりを口説き落とせばいい。僕が歌集を出すために短歌で説得したのは、おそらくたったの数人だ。最初のうちは審判の前でうまく踊って目立つ。そこから道は開けるし、道が開けたら自分の好きなように踊ればいい。自分の好みの歌をつくるよりは、求められている短歌を、つまりは商品をつくろう。
Posted by
短歌の詠み方、そして読み方がよくわかる本となっている。理論的なことや和歌などから説明するような難しいことはなく、あくまで現代短歌の楽しみについて書かれていると思う。特に木下龍也さんの推敲・添削がとても興味深かった!パズルのように組み立てていく言葉により、短歌を作り上げていく楽しみ...
短歌の詠み方、そして読み方がよくわかる本となっている。理論的なことや和歌などから説明するような難しいことはなく、あくまで現代短歌の楽しみについて書かれていると思う。特に木下龍也さんの推敲・添削がとても興味深かった!パズルのように組み立てていく言葉により、短歌を作り上げていく楽しみを味わっているのだろうと思った。もっと色々な短歌を読みたくなる!
Posted by
図書館の棚でこの本を見かけた時、装丁がとてもキレイで手に取った。 書名と著者名の上から金ピカのペンで街(渋谷?)の風景が描かれていて、角度によって本のタイトルが見えたり見えなかったりして、面白いな、素敵だな、と感じた。 本書の中で、外観にもこだわって短歌集を出そう、というようなこ...
図書館の棚でこの本を見かけた時、装丁がとてもキレイで手に取った。 書名と著者名の上から金ピカのペンで街(渋谷?)の風景が描かれていて、角度によって本のタイトルが見えたり見えなかったりして、面白いな、素敵だな、と感じた。 本書の中で、外観にもこだわって短歌集を出そう、というようなことが書かれていて、「まさに!」と思った。 家で面陳列したい本。持ち歩いて表紙を見るだけでも楽しい本。
Posted by
人気歌人による短歌入門書。奥深い世界に踏み込むと一首読みたくもなります。 “歌詠みの本を読みつつ秋も更け無言の対話で知恵を授かる” どうっすかね
Posted by
短歌をそのまんま書きたい、書けるかもと思わせてくれる。短歌に興味がある人は読んで損はしないと思う。私はこれを読んでから、毎日下手くそなりに短歌を作っている。案外、楽しいですよ。
Posted by
この本を読み終えて自分に残っている知識で短歌を書いてみようと思った。岡本雄矢さんの短歌集を読んだことがあるので、推敲編にて出てきた時は驚きと喜びがあった。書いてあることは短歌に限らず活かせる場面が沢山あると思う。
Posted by
読みやすい。わかりやすい。 私はよくきらきらひからせてしまうので、ほかのひかりも写してみようと思った。
Posted by
読みやすい、わかりやすい、簡潔。そして短歌を詠んでみたくなる。 さすが31文字に普段からまとめている人はこういう文章を書くのか、と思った。
Posted by
読みやすくてするすると最後まで読み終えられた。『天才による凡才のための短歌教室』ってそういう意味か。 短歌を作るときのノウハウが詰まっており、初心者でも取り組みやすいこともたくさんあった。短歌を詠む習慣を作り、短歌の世界にもっと浸かりたくなった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
天才木下龍也が書いた短歌を詠むための本。刺さる部分はたくさんあったが、特に「目を閉じて、よく見ろ。」というパートが印象に残った。現実そのものを切り取っているわけではないところに短歌、もっと言えば言葉の面白さがあるなと思った。 以下引用 いまこの瞬間を書く必要はない。あなたが書くべきはあなたが見ているその月ではなく、あなたがいつか見たあの月だ。いまこの瞬間、あなたが見ている月について言葉はいらない。どんな言葉よりもその月の方がうつくしいからだ。(中略)それが思い出になったとき、目を閉じてもう一度その記憶のなかの月をよく見てほしい。おそらくに何かが欠けていて、何かが不鮮明になっているはずだ。そこにこそ詩の入り込む余地がある。
Posted by