フランス組曲 新装版 の商品レビュー
フランスの「ルノードー賞」の歴史において初めての「死後受賞」作。 1942年にフランス憲兵により捕縛され、同年のうちにアウシュビッツで無残な最期を遂げたイレーヌ・ネミロフスキーの遺作が、実に60年の月日を経て陽の目を見る”歴史的事件”があり、2004年に同賞が贈られたのだという...
フランスの「ルノードー賞」の歴史において初めての「死後受賞」作。 1942年にフランス憲兵により捕縛され、同年のうちにアウシュビッツで無残な最期を遂げたイレーヌ・ネミロフスキーの遺作が、実に60年の月日を経て陽の目を見る”歴史的事件”があり、2004年に同賞が贈られたのだという。 1942年の執筆時点で、ドイツ軍に占領されたフランスの運命は当然ながら誰も知らない。著者は、フランスの疎開地にいて戦争の行方を追いながら、5部作として構想した「フランス組曲」の執筆を進めるのだが、世界大戦の結末を見ることなく、ホロコーストの狂気に飲み込まれてしまう。(フランス組曲は2部まで書かれた未完の小説) 「フランス組曲」は21世紀に発表されたわけだから、すべての読者は、歴史の結末・著者の運命を知った上で、本作を鑑賞することになる。その点が非常に切なく、やりきれない思いがする。 占領軍であるドイツ軍の将校と、占領された村のフランス女性との、恋というには難しい心の通い合いが緻密に描かれる。二人の仲を切り裂く「独ソ開戦」に対して、著者からドイツ兵へかすかながら憐憫・哀惜の感情がほとばしり出ているように読める。独ソ戦の結末を知らない時点で書かれた本作において、占領者に対して「呪詛」のような感情を連ねることとは異なり、延々と戦線が拡大することに対する「憐憫・哀惜」の情が勝つという、このことをどう鑑賞すればいいのか。考えこんでしまう。 何か大きなものの存在を認めないわけにはいかない。 さらに言えば読者は、イレーヌ・ネミロフスキー自身が間もなくアウシュビッツに連行される歴史を知っているのであるから。 著者の娘は、自分自身もホロコーストの恐れがありながら、幼少の身で、母親の遺品であるトランク(その中にフランス組曲の2部がおさめられていた)を引きずり、逃避行を重ねたという。本書の宣伝文句「20世紀の奇跡」という言葉は、文字通りそのまま受け止めたい。
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読むのにかなりの月を費やしたが、読めて良かった。 繊細な魂同士の対話、残酷さの中に果実や植物の名前がふんだんに散りばめられていて、それらが乾燥した空気の中に瑞々しさを加える。 資料はアンネ・フランクのような、戦争に絶望と憤りを綴ったりと本当に貴重なものばかり! 敵対国とはいえ、兵...
読むのにかなりの月を費やしたが、読めて良かった。 繊細な魂同士の対話、残酷さの中に果実や植物の名前がふんだんに散りばめられていて、それらが乾燥した空気の中に瑞々しさを加える。 資料はアンネ・フランクのような、戦争に絶望と憤りを綴ったりと本当に貴重なものばかり! 敵対国とはいえ、兵士は一人の人間である。 しかし、占領された側としてはやはり複雑さと憤り、時に優しさを含んだ対話に隙間から陽光が差すように優しさをも感じる。 魂と魂、男と女…戦時下の魂と精神は辛く優しい。
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去年マリエンバードとか、デュラスの、アンニュイ系を想像して、手に取るのをためらっていたが、いい意味で違った。今までの作者のイメージが変わった。戦争が始まって、敵に侵略される話だが、暴力描写などはなく、国が、今までの生活が崩れて行く様子を、人間の精神的、物理的な枯渇をまざまざと書い...
去年マリエンバードとか、デュラスの、アンニュイ系を想像して、手に取るのをためらっていたが、いい意味で違った。今までの作者のイメージが変わった。戦争が始まって、敵に侵略される話だが、暴力描写などはなく、国が、今までの生活が崩れて行く様子を、人間の精神的、物理的な枯渇をまざまざと書いていて、なんというか、いい意味で人間の俗っぽさが書かれ、でもあくまで上品に、感情の起伏は丁寧に描かれ、今までの私小説っぽい作品とは違う、歴史的な本だった。
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1942年アウシュビッツで亡くなったロシア系ユダヤ人作家が遺した作品。 生き残った娘に託されたトランクの中に入っていたもので、創作ノートも残っており、本になっている2つの章(?)で終わらず、もっと続く予定だったようだ。 最初の「六月の嵐」はドイツ軍が侵攻してくるというニュースを聞...
1942年アウシュビッツで亡くなったロシア系ユダヤ人作家が遺した作品。 生き残った娘に託されたトランクの中に入っていたもので、創作ノートも残っており、本になっている2つの章(?)で終わらず、もっと続く予定だったようだ。 最初の「六月の嵐」はドイツ軍が侵攻してくるというニュースを聞いてパリ市民が郊外へ逃げていく「大脱走(エクソダス)」の様が描かれる。複数の家族、夫婦、恋人たちが登場する。なんというか因果応報なところもあって、にやりとさせられる。 次の「ドルチェ」はドイツ軍が宿泊する田舎町の複数の家の様子が描かれる。 巻末には著者の創作ノートと書簡を所収。
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