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「色のふしぎ」と不思議な社会 の商品レビュー

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17件のお客様レビュー

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2021/07/10

人間の視覚のうちで色の認識は、客観的な外的事実の認知ではなく、あるスペクトラムの光をある色として認識するいわば錯覚であり、個体差が大きい。したがって、色盲、色弱と言われるカテゴリーと正常色覚を明確に区別することはできず、色覚の弱い人から、スーパーノーマルと言われる極めて色覚能力の...

人間の視覚のうちで色の認識は、客観的な外的事実の認知ではなく、あるスペクトラムの光をある色として認識するいわば錯覚であり、個体差が大きい。したがって、色盲、色弱と言われるカテゴリーと正常色覚を明確に区別することはできず、色覚の弱い人から、スーパーノーマルと言われる極めて色覚能力の高い人までなだらかな正規分布をなしており、正常と以上の間にギャップがない。 また、現在行われている石原式色覚検査は、偽陽性の発生頻度が極めて高く(男子で46%、女子では97%)、スティグマの弊害が大きい割に、メリットが小さく、一律に実施するのは妥当ではない。 という内容。健康診断におけるエビデンスベースの考え方を色覚検査に応用した議論であり、説得力がある。

Posted byブクログ

2021/06/13

色覚の検査、小学校の頃にやった記憶がある。 結果、「異常」の可能性ありと判定されたクラスメイトがいたことを覚えている。 たぶん、僕は、色がわからないことがどういうことか理解ができず、興味本位で彼に質問しただろう。どんな風に色が見えるのかを。 彼はニコニコしてあまり気にしていない風...

色覚の検査、小学校の頃にやった記憶がある。 結果、「異常」の可能性ありと判定されたクラスメイトがいたことを覚えている。 たぶん、僕は、色がわからないことがどういうことか理解ができず、興味本位で彼に質問しただろう。どんな風に色が見えるのかを。 彼はニコニコしてあまり気にしていない風だった記憶がある。でも、心ではどう思っていたのだろう。 今から考えると、みんなの前で色覚について正常か異常かを診断する差別的な検査だった。 しかも「色覚異常」に治療法はないときている。 「色覚異常」が遺伝性のため結婚について注意を促したり、就ける職業を制限したりするための検査。 なんのために、そんな重荷を小学生に負わせなければならなかったのか? この本は、「色覚異常」がはたして「異常」なのことなのか?を問う書だ。 人が色をどう認知するのか、わかりやすく掘り下げていく。そうした中で、色覚に関しては決して「異常」があるわけではなく、連続しており、多様であり、広い分布があるもの、と認識に至れる。 そして、たとえ色覚の認識が弱かったとしても、みんな自分の持っている感覚を総動員して生きているわけで、1つの感覚の性能のみで全体を語るのには慎重でなくてはならない。 ただし、カラーユニバーサルデザインについてはしっかり環境を整備する必要がある。未だに黒板に赤いチョークを使う教師がいるらしい(ほんとか?)。誰もが認識しやすい色を用いることを心がけることは重要なことだ。 光そのものに色はついていない。絶対的な色なんてない。光をどう捉えるか、ただそれだけだ。 つまり、人によって無数の色認識がある。 たぶん、僕とあなたの色認識は違う。 僕が見える色は僕オリジナルのもの。 そう考えると、日常の何でもない風景の色が、とんでもなく愛おしくかけがえのないものに見えてくる。 発見がとても多い本なので、ぜひ皆さんに読んでほしい。

Posted byブクログ

2021/05/19

大変面白かった。色覚だけでなくあらゆる個人差について考えさせられる1冊。自分の感じ方と他者の感じ方は、色ひとつとっても差異があるのだと疑い、その前提の上で社会の仕組みを考えねばならないと改めて思う。

Posted byブクログ

2021/03/16

21/03/16読了 いくつか印象的だったことをメモに。 スクリーニングとはなにか、特異度と感度の問題など興味深かった。covid-19でも甲状腺がんでも議論になってますね。

Posted byブクログ

2021/01/20

認知の違いが起こりうるもののひとつとして、「色覚」もあると思う。私たちは、ある線を境に区切りたがるが、本当は連続していることを改めて認識。同時に生物多様性から見ると、意味のあることで、加えて進化の過程であるのかも知れないと思った。

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2020/12/10

かつて日本では、世界に誇るという石原式色盲検査表というものがあり、これで小学生以来すべての生徒をスクーリングにかけて、「色盲」を検出しようとしてきた。ところが、その後高柳さんという人を初めとして多くの眼科医の運動で、この検査が差別を生み出すということで、学校において行われなくなっ...

かつて日本では、世界に誇るという石原式色盲検査表というものがあり、これで小学生以来すべての生徒をスクーリングにかけて、「色盲」を検出しようとしてきた。ところが、その後高柳さんという人を初めとして多くの眼科医の運動で、この検査が差別を生み出すということで、学校において行われなくなった。しかし、だからといって、色盲による不都合な現実が出なかったわけではない。そこで、最近また、この検査表でもう一度スクーリングをやろうとしているという。やる方は、生徒たちが将来そういう困難な局面に遭遇したとき困るから、早めに対策をとらせようというわけである。ところが、川端さんはこれに大きな違和感を覚えた。「むしろ、必要な人に,適切な時期に、必要な情報を」与えるべきではないかという。ぼくもそう思う。それはスクーリングで抽出された人たちが自分の将来を狭く限ってしまうからだ。それでも困ることがあるというのは、それは現代医学の先端を知らないからである。本書で展開された科学の知見によれば、困る場合はかなり限られてくる。本書の醍醐味は、科学ジャーナリストで、当事者でもある川端さんが、現代科学の成果を丹念に追い、異常と非異常の差は連続的なものであることを明らかにしたことである。石原式検査表はたしかにすぐれたものではあるが、現代科学の成果からすると荒い。川端さんはそれを人類である霊長類がもともと2色覚であったものが3色覚をもつようになった動機を述べ、2色覚と3色覚の差はどこにあるかを追究する。そもそも、川端さんは小学校のとき、「異常3色覚(=赤緑色盲)と判定され、その後の職業選択で、幅をせばめつつ現在の地位を築いてきた。そして、今回、本書を書くに当たって、自ら検査をしなおしたところ、アロマロスコープでは正常の結果が出たのである。だとすると、今までのもやもやはなんだったのか。また、世の中でこのもやもや感を持っている人たち、検査をあくまで強行しようとする人たちに提起したのが本書であった。アロマロスコープは石原検査表で問題になった人たちをさらに検査するものだが、これは全国的にも備えている病院が少ないそうだ。そんな環境下で異常か正常かを判断され、将来の夢までつぶされる検査とはなんだろう。わたしも、川端さんと同じく怒りを感じる。本書には色覚の発展についての興味深い記述がたくさんある。たとえば、緑は赤から出てきたものなので、波のかたちが似ている。だから、紛らわしいのだが、これも人によって違いがあって、川端さんの場合はかなり修正しないと正常値にならないのだが、それでも緑を見分けることができる。また、川端さんの場合は青に対する認識が他の人よりも高いという。ぼくも日本の信号は緑と赤だと思うが、緑が青みがかって見えることがある。そういう個人間での違いがあるのである。さらに言えば、正常と言われる人たちの4割も精密な検査では異常色覚と判定されるらしい。川端さんはさらにアメリカの軍での検査も受け、ジェット機のパイロットとしては不適格だが、民間の航空機のパイロットしては合格だという認定を得た。つまり、異常かどうかはどこまでも連続的で、職業での適不適も一概にいえないのである。本書は、ひたすらスクリーングテストに傾いている人たち、また、小さいときから色盲色弱のレッテルを貼られて悩んできた人たちに広く薦めたい好著である(○○賞をあげたい本である)。

Posted byブクログ

2020/11/07

 色の知覚について,少しは知っているつもりだったけど,読んでみたら,思っていたより遥かに幅も奥行きも大きな話になっていて驚いた。色の知覚のしくみに関する話(第2部)は,遺伝学,神経科学と,さらには進化の観点からも説明されていて,「詳しいことはさておきこんなふうになってるんだって」...

 色の知覚について,少しは知っているつもりだったけど,読んでみたら,思っていたより遥かに幅も奥行きも大きな話になっていて驚いた。色の知覚のしくみに関する話(第2部)は,遺伝学,神経科学と,さらには進化の観点からも説明されていて,「詳しいことはさておきこんなふうになってるんだって」レベルの理解だったのが,なんでそんなふうになってるのかというところまでわかった感じ。社会的な問題(第1部,第3部)については,学校での色覚検査が廃止されて(自分が小学生の時はあった),今はまた復活の気配が見えているとか,そのことの大きな問題点とか,学校での検査の事情やそこで「正常でない」と診断される人の身に起きることなど,深く想像したことがなかったので,まずその現状に驚き,こうしたらいいんじゃない(こうするべきなんじゃない)?という本書の結論にものすごく同意した(読んできてまんまと説得されているだけといわれるかもしれないが,そうなってしかるべき説得力があった)。最後の方には出生前診断や自閉症スペクトラムの話まで出てきて,色覚だけの本というより「診断」の話としても面白い。  色の知覚は心理学の授業でも紹介していて(資料がカラフルだからか,学生のウケがよい),最近は特に「色覚『異常』と呼ぶのはおかしい」という話もしていたけど,もうちょっと時間と情報量を増やして説明するのがいいかもという気がしてきた。あと,(知覚)心理学の授業だけでなく,社会心理学の授業でも紹介できそうだし,ぜひしてみたいとも思う(対人認知,ステレオタイプとかラベリングの効果とか集団行動の話とかの中で)。トランスサイエンスの話ともいえるので,そういう話をする機会(今のところありそうなのは演習系の授業かな)にはぜひ話題にしよう。

Posted byブクログ