戦後日本、記憶の力学 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
近い問題を取り上げている関係上、著者の仕事は何度か参照してきたが、どうしてこんなに退屈なのだろうといつも思う。もちろん有益な情報はたくさん掲げられていて、資料的にも勉強になることも多くある。しかし、この本の副題ではないけれど、ただただ「無難」にまとめられているだけで、驚きや刺激が感じられないのである。本書では第四章の映画『野火』、第五章の映画『軍旗はためく下に』の部分に興味を惹かれたが、よく考えたらそれは、これらの映画が面白い、ということでしかない。 上記のように感じられてしまうのは、本書においても、基本的に既知の枠組みの中で先に議論のフレームが決められて、それに合わせて言説や資料が当てはめられているように見えるからだろう。言い換えれば、著者が定めた各論のストーリー(例えば原爆であれば、「戦跡の保存」をめぐる意識の変化)に合わない言説や資料が、はじめから切り捨てられているのではないか。だから、著者の議論には思考の展開が感じられない。ただ資料が手際よく整理され、順を追って並べられている、という印象が拭えない。いろいろ有益な情報を教えてくれるが、既知の議論のフレームを批判的に更新するようなものではない。
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