十二月の十日 の商品レビュー
訳者の岸本さんも書いている通り『パストラリア』に似た短編集だった。 あらすじだけ書いたら、こういう作品は他にもあるかもしれないが、こういう書き方をする作家は他にいないだろう。また、岸本さんの絶妙な訳(ときどき筒井康隆が入るが)で、その世界観がよく伝わった。これ、他の人の訳だった...
訳者の岸本さんも書いている通り『パストラリア』に似た短編集だった。 あらすじだけ書いたら、こういう作品は他にもあるかもしれないが、こういう書き方をする作家は他にいないだろう。また、岸本さんの絶妙な訳(ときどき筒井康隆が入るが)で、その世界観がよく伝わった。これ、他の人の訳だったら、随分違う印象になっていたのではないかと思う。 ディストピアものが特に良かった。「スパイダーヘッドからの逃走」は犯罪者が人体実験の被験者になることで刑を軽くしてもらえるシステム(そこは『時計じかけのオレンジ』に似ている)を通して人間にとって大切なものを考えさせる。かなり苦い後味だが、人そのものに対する信頼を感じる。「訓告」はホラーショートショートの傑作。「センプリカ・ガール日記」も外国人労働者問題をイメージさせる。しかし、それだけじゃないところが、素晴らしい。「センプリカ‥‥」で言えば、(先進国では)下流に近いところで、なんとか希望を持ちながら奮闘する父親の家族への愛情が切ない。「アル・ルーステン」もそう。「ホーム」の帰還兵も、暴力的衝動にかられながらも本当は寂しく、愛情深い人間であることがわかる。 かつてのソーンダースは徹底的に悪ふざけをし、ハチャメチャだった(そこが好きだった)が、この本では救いや愛情が感じられる。妻子への感謝が作者あとがきに書かれているが、ソーンダース、きっと凄くいい父親で夫なのだろうなあと思う。それでもこれだけブラックなのがいいじゃないの。 表題作で、エバーという重い病の男が生きることそのものを肯定しようとするシーンは、感動した。 安楽死とか尊厳死とか安易に言っている人は、読んで欲しい。
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岸本さんの翻訳が秀逸で、読んでいる最中は吐き気がしたり爆笑したり落ち込んだりと終始忙しかった。おバカSF最高ですね。ジョージ・ソーンダーズもっと読みたい。 そして、これが好きってことは私も『ミッドサマー』楽しめる勢なのかも。(アリ・アスター監督はソーンダーズを好きな作家の一人に挙...
岸本さんの翻訳が秀逸で、読んでいる最中は吐き気がしたり爆笑したり落ち込んだりと終始忙しかった。おバカSF最高ですね。ジョージ・ソーンダーズもっと読みたい。 そして、これが好きってことは私も『ミッドサマー』楽しめる勢なのかも。(アリ・アスター監督はソーンダーズを好きな作家の一人に挙げているらしい!)
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この世界と地続きにあるどこかの国の "弱い"人たちの頭の中を覗き込むような話たち。 その国はこの世界よりちょっとデストピアにすすんでいて、 人びとは私たちと同じようにお金のことや、道徳と現実の乖離や人からどう見られているかを悩みながら生きている。 うまくいか...
この世界と地続きにあるどこかの国の "弱い"人たちの頭の中を覗き込むような話たち。 その国はこの世界よりちょっとデストピアにすすんでいて、 人びとは私たちと同じようにお金のことや、道徳と現実の乖離や人からどう見られているかを悩みながら生きている。 うまくいかないことだらけで、頭のなかではピーっワードを叫んだり、くよくよしたり、ほとんどくじけそう。 それでも愛や優しさや思いやりが、最後の希望みたいに時々光る。その微かな光でまだ生きていけそう。
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これはまたいろんな意味ですごいな。 SF設定がくそみたいだけど、それが現代社会を痛烈に風刺するためのものだとわかるとほええええええと感嘆してしまうし、とくにセンプリカ・ガール日記はすごかった。 SGってなに?と思ったけどそれがなにかわかると背筋凍るしすごい嫌悪感。でもこれも移民へ...
これはまたいろんな意味ですごいな。 SF設定がくそみたいだけど、それが現代社会を痛烈に風刺するためのものだとわかるとほええええええと感嘆してしまうし、とくにセンプリカ・ガール日記はすごかった。 SGってなに?と思ったけどそれがなにかわかると背筋凍るしすごい嫌悪感。でもこれも移民への扱いを皮肉ってるのよね… 物語をこういうふうにかいて、こういう目的で『力』とするのは日本にはなかなかない感覚でおもしろかった。
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なんだか、じわじわと考えさせられるというか、ああこのあとどうなったのかな、どういうことかな、やっぱりこういうことなのかな、彼は彼女はどんな気持ちだったのかな、と読後、ぼーっと考えてしまう。 うまく説明できないけど、どこかにいそうな人たちで、だからこそ、ずっと光の届く水中なのに、決...
なんだか、じわじわと考えさせられるというか、ああこのあとどうなったのかな、どういうことかな、やっぱりこういうことなのかな、彼は彼女はどんな気持ちだったのかな、と読後、ぼーっと考えてしまう。 うまく説明できないけど、どこかにいそうな人たちで、だからこそ、ずっと光の届く水中なのに、決して水面に上がれないような、そんな息苦しさもあった。気がする。 わたしはちゃんとこの物語たちを理解できてるのかな。そんなことを考えながらぼーっと、物語について、人について考えてしまう。
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不思議で不穏な余韻が残るダメ人間がダメダメになる話の数々。ダメ人間な俺には身につまされ、単純に面白がれない。けど、トークショーで間室さんがルシア・ベルリンより好きかもとおっしゃっていたのも頷けるような気がする。岸本さんが紹介されていた最初の短編集「パストラリア」は、ソーンダーズ曰...
不思議で不穏な余韻が残るダメ人間がダメダメになる話の数々。ダメ人間な俺には身につまされ、単純に面白がれない。けど、トークショーで間室さんがルシア・ベルリンより好きかもとおっしゃっていたのも頷けるような気がする。岸本さんが紹介されていた最初の短編集「パストラリア」は、ソーンダーズ曰く作風がもっと尖っているそうな。生前と性格が激変したゾンビ叔母が主人公の男性ストリッパーに浴びせる言葉がエグいとうい「シーオーク」が読みたい。
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「十二月の十日」 ジョージ・ソーンダーズ(著) 岸本佐知子(訳) 2019 12/20 初版 (株)河出書房新社 2019 12/31 読了 ジョージ・ソーンダーズ! どこかで聞いた名前だなぁ… と思っていたら あの!「人生で大切なたったひとつのこと」の作者ではありません...
「十二月の十日」 ジョージ・ソーンダーズ(著) 岸本佐知子(訳) 2019 12/20 初版 (株)河出書房新社 2019 12/31 読了 ジョージ・ソーンダーズ! どこかで聞いた名前だなぁ… と思っていたら あの!「人生で大切なたったひとつのこと」の作者ではありませんか! 地元ラジオで印象に残った節をパーソナリティの方に朗読していただいた時に あまりの感動に(自分が紹介している書籍に関わらず)絶句して言葉が出なくなったと言う。 本作はどうしようもなく… 人として… どうしようもない人達の話が詰まった短編集だ。 そこには正直で優しくて愛に満ち溢れた人々が描かれています。 どうしようもないけど どこかで間違えてしまっているけど 世界は愛で満ち満ちている。 そう信じたいと心から思わせる物語でした。 それにしても見事なのは 岸本佐知子さんの訳ですな。 2019年最後の本。 素晴らしい。
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ユニークな短編集。 こういう変な本、好きだなぁ。 登場人物がどれも個性的で、言ってしまえばダメな奴なのだが、どうも嫌いになれないタイプのダメさ加減だ。
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